オシャーンの日記編 (16)



「勝手に信じられてもな―…」
サントが去った後の部屋で、カシェは呟く。

元はといえば日記に記された『100万年後』が気になりこの時代に来た。
別にエミウルを嵌めたかった訳では無い。
日記に手掛かりを見出せない以上、持ち続ける事に意味は無かった。
だから返却してしまっても構わなかった。

サントが来る前なら。

「言われて返しに行ったみたいになるじゃないか」
どうにも引っ掛かるのがその点だった。実際その通りなのが余計に癪だ。
かといってエミウルを避け続けても、向こうに掴まるのは時間の問題だろう。
それならまだ、こちらから行った方がマシだ。

ここまで調子を狂わされるのは、337代目当時はそうそう無かった。
1000代目の空気のせいだろうか。いや、この時代において異物なのは自分達である。

諦めたようにカシェは立ち上がり、半開きの扉から廊下へ抜ける。

カシェは知っていた。
普段はドライなエミウルが何かに拘るとき、どこまで執着し粘るのか。
杖を構え、唱える。

「ドゥローゼ」

まるで地雷を探るかのように、周囲に探知魔法を張り巡らしながら歩き始めた。


  *

  コーレニン北部 廊下

エミウルとズィナは、北部食堂に向かって歩みを進める。
歩いた経路には、エミウルが極小魔方陣を残していた。
もしどれかの魔方陣がカシェを一部でも捉えれば、他の魔方陣は消える仕組みになっていた。

ズィナにはわざわざ教えていなかったが、何も無しでカシェの居場所の候補地に向かうのを躊躇っている様子なのはなんとなく察していた。
一応共に行動している訳だし、そろそろ話しても良いかな…――と思った矢先のこと。

複数の魔方陣が同時に消えた。

想定外ではあったが、もしカシェが魔方陣の存在に気付いたのならあり得なくは無かった。
問題は、基点となった場所が何処かという事。
位置も飛び飛び。複数残るにせよ、全く不自然な残し方をされた。

極小魔方陣にはルーベリー文字による印付けをしていた。
残った文字は、アルファベットで言う『I』『M』『N』『O』『R』『S』『T』。これらから法則性、特に数学的な法則性を割り出そうとするが、カシェが積極的に数学を扱うとは思えなかった。
扱うとするならば、言葉。
7つのルーベリー文字を並べ替える。

出来た単語は、『INS ROMT』。

意味は、『自分の部屋』。

エミウルはズィナの手を取った。
「カシェパースは自分の部屋にいるわ。行くわよ」

来た道を引き返す中、ズィナはエミウルにこぼした。
「内緒で策でも打ってあったから居場所が分かったんですか? だったらその時点で言ってくださいよ…」
そう言うズィナも、自分なりに手を打とうとしていたらしい。お互い様だった。
「気まぐれで動いたと思われても仕方無いわね、謝るわ」

それにしても不可解だった。

――あんなに私のことを拒んでいたのに、どうして…?

カシェこそ気まぐれで動くとは思えない。
何か思惑が見え隠れするが、直接会って確かめる他無かった。

惑いの魔法の圏内に入った辺りから、一層警戒心を強める。
しかし先刻と同じように難なく進むことができた。
その上、あの時は行き止まりだった場所すら通過できた。

――魔法が消えてる…

もしかして先にこそ罠があるのでは――等、勘ぐりながら進む。
こちらの警戒は取り越し苦労だったようで、結果、最後の曲がり角を抜けた。

長くない一本道。
奥の扉の前で待ち構えていたのは、求める魔法族だった。







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