オシャーンの日記編 (15)



  コーレニン東部

「そろそろプナハと合流しようかな」
1000代目の時代に来たサントは、プナハを探し始める。
時間移動に使った南東部の場所から、堂々と大広間に近い広い廊下を歩いて来ていた。
裏道を使っても1000代目の魔法族に会ってしまう時は会うんだし、向こうから何か言われても笑顔で黙殺するつもりでいた。

「プナハもだけど、あの後エミウルがどうしたかも気になるね」

エミウル繋がりで、ある一人の魔法族を思い出す。

「まさかカシェが関わっているなんて事…あるのかな?」

曲がり角を数回曲がった先で、サントはふと廊下の床に目を落とす。
タイル間の溝の影が所々濃くなっており、且つそれらの影が連なっていた。
ははあ、とサントは納得したように苦笑する。

「まさかだったみたいだね」


  *


カシェは本の各部に杖を当てながら、綿密に日記を調べていく。
勿論その間も、プナハ監視用の影は足下から繋いだまま。
影に意識を払いつつ、日記検証に使えそうな魔法を思い出しては呪文を呟く。
必要に応じて杖の先で簡易魔方陣を描いたりもした。

小一時間ほど経っただろうか。どの魔法を使っても手応えが無い。
日記に防御の魔法が掛かっている訳でも無さそうで、そもそも何も隠されていないのではと思い始めた。

――もしかして、この時代で起きる事を伝えるのが目的では無い?

――日記の目的は何だ…?!

そして影で監視するプナハの目的も。
影を通してアクションを起こそうか。
そんな事を考えたところで、

真正面の扉が開き、

差し込んだ強烈な光に思わず目が眩んだ。

辛うじて微かに開けた視界の中央に立つその光源は、瞬きをする毎に一歩、また一歩、こちらに迫ってくる。

「こそこそと誰かを監視するなんて卑怯だと思うよ?カシェ」

手のひらに乗せた光でカシェを照らす。

「サント…」
遂に来たかという眼差しを向ける。
そこには「線状の影に何故気付いた?」という問いも含まれている事を、サントは汲み取った。
「小さい頃、この場所で、同じように誰かを監視したことがあったよね?」
ルーのことだと敢えて言わなかった。
故意であることをカシェはすぐに気付いた。
「それに、」
サントは続ける。
「光と影にはどうも敏感でね」

光が収まると、監視用の影がいともあっさりと消え去っていた。

サントは後ろを振り向き手をさっと振り、部屋の扉を閉める。
「エミウルが337代目の時代の図書館で日記を捜していたからね。
 プナハが日記と共にこの時代に来ている事を伝えたよ」
おかしい。
この時代に来てすぐエミウルと鉢合わせた時、日記の所有者に全く心当たりが無い様子だった。

「一旦337代目の時代に戻ってきたんじゃないかな?」

もし本当だとするならば。
エミウルがプナハを求める構図が成り立つ。
プナハの居場所はエミウルもサントも正確には知り得なかっただろうが、推測のヒントをサントが提示する事は出来る。誰かが介入しない限りは実現し得ないと踏んでいたプナハとエミウルの接触だったが、その『誰か』が今、明らかになった。

「サント、お前だったのか…!」

相手は全く悪びれた様子も無く、にこにこと立っていた。
「『あって当たり前』の光に、ひとはわざわざ目を向けないよ。
 光源を掴めない光なら尚更」
コーレニンでの『太陽』のように。
光の在処に目を向けた時、それがとても眩しいものだと初めて気付くのだった。


「カシェ、もしかして隠している物があるでしょ?」
突然サントから切り出される。
「なんでそう決めつけられる」
ぶっきらぼうに返すが、この時点でサントに見透かされているだろうし、それを自分でも気付くのが忌々しい。
そこまですっきり見え見えですよといった調子でサントは微笑む。
「ここにカシェがいるから」

カシェは思いっきり溜息をつきたい気分になった。
同じ時間軸に居合わせているから。この事実を基点にどうしてそこまで話を飛ばす事が出来るのか。「どうして」と思いつつも、長く腐れ縁的に付き合ってきた仲だから分かる。
「どうせ『勘』なんだろう」
サントは素直に頷く。
「エミウルの捜し物に心当たりがあるかな―と思っただけ」
何処からが勘で何処からが論理的な導きなのか。
無論サントにとっては両者の境界すら有って無いようなものなのだろう。遂にカシェは静かに息を吐き出した。

「エミウルが何処を捜すか、カシェなら分かるよね?」
「こっちから行けと言うのか?」
「この部屋の事、向こうは知らないんでしょ?」
確かに。エミウルはカシェの幼少期にそこまで介入していない。
当時は時々廊下で顔を合わせ見知っていた程度。
「だからと言って俺が行く筋合いは無いだろう」
「足掻くねえ」
サントは苦笑する。
「エミウルが相手だと足掻けないのに」
グサリと頭を射貫かれる。
「うるさい」
せめてもの抗議をかわすように、サントはくるりと背を向ける。
部屋の入り口まで歩いたところで、ドアノブに手を掛けながら振り向いた。
「じゃあそういう事だからよろしくね」
「何がよろしくだ。…って、サントは来ないのか?」
てっきり連行されるのかと思った。
「プナハと合流しようかなって」
そういえば最初は2人で何かしようとしていたっけか。
プナハはそれを望んだのだろうが実際に今こんな状態なので、友人のマイペースさに呆れるばかりだった。

「…俺がわざわざエミウルの所に行くとでも思うのか?」

サントは爽やかに笑った。

「うん。カシェのこと、信じているから」







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