ズィナ編  (8)



徐に、ズィナは歩き始める。
「何処に行くんだ?」
「図書館です」

別世代の時間層に降り立った時の行動パターンは、なんとなく予測できる。
大方、かつて自分が使っていた部屋を拠点にするだろうと思われた。
もしかしたらと、カシェの居場所として賭けてみる。
337代目当時にカシェが住んだ部屋を知り得るのは、同世代の者。
伝手がいるとすれば、魂の本の中。

ズィナは最寄りの時空移動ポイントに入り、図書館のある北東部までの空間移動魔法を使った。


  コーレニン図書館

魂の本で、同魂系337代目の魔法族に尋ねた。
生前、カシェと関わりがあったか。
もしあったなら、彼の部屋の場所を知るか。

答えが返ってきた。
関わりは、無くはなかった。
カシェの部屋の場所は、大体の位置しか知らない。
自分より、ウェイウィーアの魂系337代目のほうが遥かに詳しかった。
以上。
もしかして、と図書館で見かけたオレンジ頭を思い出す。
彼はまだこの時代にいるのだろうか?

まずはカシェの居場所を突き止めよう。
ズィナは北部に向かった。


  コーレニン北部

教えて貰った一帯の入り口には辿り着いたものの、この先は見るからに入り組んでいそう。
細い廊下の分かれ道に立つ。

そんな時、背後から声を掛けられた。

「こんな場所で、どうしたの?」

一瞬肩をびくつかせ、ズィナは振り返る。
同時に、前髪越しに相手を見つめた。
初対面の魔法族。
1000代目の魔法族にいたっけかと記憶を辿り始める一方で、ズィナは337代目の魔法族達の存在を思い出す。
まさかと思いつつ、目の前の彼女が同様の存在である可能性が頭に浮かんだ。
となれば、と、相手の特徴を探る。
群青色の髪に、氷色の瞳。
あとは髪の長さで大体分かるのだが、相手の髪は綺麗に纏められていて推測できかねた。
以上のことを素早く頭で処理しながら、相手の質問に答える。
「探している相手がいます。
 まず、――貴方は何代目ですか」
「…337代目よ」

まさかだった。
胸中での警戒バロメーターを引き上げる。
一方で相手はこちらの反応に気付いたのか、表情を引き締めた。
「こんな場所で、…誰を探しているの?」
探りを入れられる側に回ってしまった。
開き直るしかないと諦め、探している魔法族の名を挙げた。

「カシェパース・ルーです」

相手の表情が微かに緩む。
道理でこの場所に、といった感じだった。
彼と関わりのある魔法族なのだろうか。
ならば、とズィナは杖を相手に見せる。
「この杖を、元に戻して欲しいんですよ」
すると相手が尋ねた。
「カシェパースがこの時代に来て、貴方の杖を触ったの?」
首を横に振り、答える。
「先祖から引き継いだ魔法道具を探し当ててみたものの、余分な部品がくっついていたんですよ」
嘘は言っていない。
「取ろうにも取れない。魔法を使って取って、魔法道具に変な影響が及ぶのは避けたい。
 調べてみれば犯人は337代目の魔法族で、偶然にもこの時代にいるというじゃないですか。
 だからこうして探しているんです」
相手に背を向け、歩き始め――たところで、後ろから手を掴まれた。
「待って」
「?!」
思わず前のめりになりかけた。勢いでズィナは振り返る。
「何なんですか!」
「私もカシェパースを探しているの。
 だから協力して探さない?」
「それは…」
「ええ、分かるわ。誰だか分からないひとと行動はし辛いでしょ」
彼女は結っていた横髪をほどく。
「これで分かるでしょ」
肩に掛かる横髪を見て、ズィナは目を剥いた。

「オシャーンの魂系337代目、エミウル・オシャーンよ」
   ・ ・
――あのオシャーンの魂系か…!
彼女の纏う独特の静けさが、1代目当主と重なる。
だからといって、1000代目のララーノは全く異なる雰囲気なのだが。

当たり前だが、ララーノ以外のオシャーンの魂系の魔法族を見たのは初めてだった。
自分の魂の本で後代を見たときも思ったが、
同じ魂なのに、こうも変わるものなのか。

いや、本質が変わらないからこそ、こうも自在に変化を遂げることが出来るのだろうか。
それなら、変化の見られないコーレニンは?
コーレニンを縛っているものは何?

終わりの無い思考に入りかけたところで、エミウルが髪を結い直しながら口を開いた。
「この一帯は、惑いの魔法が掛かっていなくとも迷い易いわ。
 ここまで来れたのは、カシェパースの部屋の場所を魂の本で聞いたからでしょうけど、
 ウェイウィーアの魂系以外の337代目の子が到着までを詳しく知っているとは思い難いわ」
シューナの魂系337代目の彼女が話していたのと、おそらく同じ魔法族だろう。
図書館で見かけたオレンジ頭の彼がそうならば、果たして彼は何者なのだろうか。
それに、目の前の魔法族も。
「エミウルさん…貴方、彼の何なんですか」
「別に何でも無いわよ。
 ただ、おそらく他の魔法族よりは関わりがあるというだけ。
 ところで、あなたは?」
不意に名前を尋ねられた。
確かに自分だけ名乗らないのは道理に反する。
「ズィナです」
「そう。行くわよ」

入り組んだ廊下を迷い無く進むエミウルに、ついて歩いて行く。
途中で所々横の壁に手をかざすのは、先程彼女が話していた『惑いの魔法』の有無の確認だろうか。

「あと少しよ」
そう言った後、エミウルは徐に足を止める。
2人の前方には、壁があるだけだった。
「行き止まり…ですか?」
「そんな事は無いはず」
エミウルは壁に手をかざした。
「…最近掛けられたばかりの魔法ね」

「待ってて」
エミウルは壁に近付き、両手で触れる。
二重の魔方陣が現れたところで、そっと唱える。
「ノーシェ」

何も起こらず、ただ魔方陣が消え入った。

エミウルは壁から手を離す。
「この時代に来たカシェパースは、私をも拒んでいるのね」

カシェといいエミウルといい何者なんだろう、とズィナは思う。
ルーの魂系1代目はつまるところ支配者のルーであり、
だからルーの魂系を理解する手掛かりに不足を感じていた。
他の魂系は少なくとも1代目と1000代目で大体の傾向を掴めるのだが。
勿論、オシャーンの魂系みたいにまるで性質が異なる場合もある。
そして、自分の魂系ですら把握しきれない。
魂の本で2代目から999代目までは一通り頭に入れたものの、
理解に苦しむ魔法族の存在も否めなかった。
同じ魂なのに。

本来なら自在な変化を喜ぶべきなのだろうが、どうにも受け容れ難かった。




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