オシャーンの日記編 (13)



  コーレニン北部

エミウルとしては、カシェの居場所を予測できる自信はあった。とはいえ、

――可能性がある場所を、潰していくしか無いかしら。

地道だった。
エミウルは、カシェの部屋に向かう。

カシェの部屋は非常に入り組んだ場所にある。
かつて彼は周辺廊下に惑いの魔法を掛けていたが、1000代目のこの時代では既に効力が切れているだろう。
そうでなくとも、無効化の魔法をカシェから直々に教わっていた。
だから到着に難航する事は無いだろう、と歩みを進める。

惑いの魔法の圏内に入った辺りの所で、1000代目の魔法族と思しき者に出会う。
自分よりも若干小柄。水色の帽子の下から青緑の髪が覗く。
声を掛けるのは迂闊かとも思ったが、エミウルはほんの少しかがみ背後から相手に話しかけた。
「こんな場所で、どうしたの?」

振り返った相手は一瞬驚いた表情を見せた後、前髪の奥からこちらを見つめた。
「探している相手がいます。
 まず、――貴方は何代目ですか」

率直な態度に思わず身構える。
「…337代目よ」
答えた途端、相手の目の表情が変化した。
エミウルも呼応して、微かに眼差しを強める。
「こんな場所で、…誰を探しているの?」

「カシェパース・ルーです」

まさかの答えだったが、道理でこの場所にと納得した。
しかし、何故?

「この杖を、元に戻して欲しいんですよ」
相手は先に本が取り付けられた杖を見せてきた。
先端に本の取り付けられた、不思議な杖だった。
「カシェパースがこの時代に来て、貴方の杖を触ったの?」
エミウルの質問に、相手は首を横に振る。
「先祖から引き継いだ魔法道具を探し当ててみたものの、余分な部品がくっついていたんですよ。
 取ろうにも取れない。魔法を使って取って、魔法道具に変な影響が及ぶのは避けたい。
 調べてみれば犯人は337代目の魔法族で、偶然にもこの時代にいるというじゃないですか。
 だからこうして探しているんです」
相手は背を向け、歩き始める。
咄嗟にエミウルは彼の手を掴んだ。
「待って」
「?!」
前のめりになりかけた相手は、くるっと振り返る。
「何なんですか!」
「私もカシェパースを探しているの。
 だから協力して探さない?」
「それは…」
「ええ、分かるわ。誰だか分からないひとと行動はし辛いでしょ」
エミウルは結っていた横髪をほどく。
「これで分かる?」
肩に掛かる横髪を見て、相手が目を剥いたのが微かに見えた。
「オシャーンの魂系337代目、エミウル・オシャーンよ」

エミウルは髪を結い直す。
「この一帯は、惑いの魔法が掛かっていなくとも迷い易いわ。
 ここまで来れたのは、カシェパースの部屋の場所を魂の本で聞いたからでしょうけど、
 ウェイウィーアの魂系以外の337代目の子が到着までを詳しく説明出来るとは思い難いわ」

「エミウルさん…貴方、彼の何なんですか」
「別に何でも無いわよ。
 ただ、おそらく他の魔法族よりは関わりがあるというだけ。
 ところで、あなたは?」
「ズィナです」
「そう。行くわよ」

入り組んだ廊下を歩いて行く。
振り返りはしなかったが、ズィナが着いてきている事は把握していた。
彼は魂系を名乗らなかった。前髪の奥から微かに見えた目の色と、髪の色から大体絞り込めたが、髪の長さが分からない。
一見ボブに見えるが、束ねて帽子の中にしまっている可能性もある。
他にも決定打が無い以上、これ以上推測し続けても意味が無い。
名前を教えて貰ったので呼ぶには不便しないから、それで充分だろう。
そんな事を考えながら、進んでいく。
途中で横の壁に手をかざしながら、惑いの魔法の有無を確認する。流石に効力は切れているようで、難なく進むことが出来た。

「あと少しよ」
そう言って角を曲がった直後、思わず足が止まった。
2人の前方には、壁があるだけだった。
「行き止まり…ですか?」
「そんな事は無いはず」
エミウルは壁に手をかざした。
「…最近掛けられたばかりの魔法ね」

「待ってて」
エミウルは壁に近付き、両手で触れる。
二重の魔方陣が現れたところで、そっと唱える。
「ノーシェ」

何も起こらず、ただ魔方陣が消え入った。
壁に触れた時点で予測はしていたが、信じられなかった。

――解除の魔法が効かないなんて。

エミウルは壁から手を離す。
手に残る感触は、まさにカシェの惑いの魔法。
この魔法が掛かっているということは、一度でも彼がこの時代の自室に来た事を示していた。
それなら尚更――
「この時代に来たカシェパースは、私をも拒んでいるのね」
思わず口に出た。
出たら出たで、やり切れない気持ちになった。

確かに、自分とカシェは何でも無い。
だから自分にだけ解除の魔法を教えて貰った時は、その理由を尋ねたものだ。
こちらから頼んだわけでは無いから尚のこと。

だがカシェは、何も答えてくれなかった。

――この時代で再会したら、彼は何と言うかしら。






 Menu