オシャーンの日記編 (11)



  1000代目の時代 コーレニン東部

プナハは日記をカシェに預けた後、ずっと宛もなく歩き続けていた。
最早ただの散歩と化していた。
「あの日記を探しているオシャーンの魂系… きっとエミウルさんのことですね!
 カシェさんはエミウルさんに届けてくれたのでしょうか?」

歩みを進める足が徐々に遅くなる。
「エミウルさんに確認を取るには337代目の時代に戻らないといけないです、けど」
せっかくこの時代に来たのなら、きっといるはずの『精霊混じり』に会いたい。
「どうやって探せば良いのでしょうか」

  *

エミウルは、再び1000代目の時代に来た。
同時刻の自分と居合わせないように注意を払いながら、プナハを探し始める。

あの後サントから聞いた助言を頭の中で繰り返す。
『プナハは東部在住だったから、他の地方よりも東部にいる可能性が高い』
『新しい事や場所に抵抗が無いから、何処にいても不思議では無い』
結局絞りきれない。頭の中で溜息をついた。
それでも他より望みの高そうな、東部を歩き探し始める。
が、すぐに歩みを止めた。
「キリが無いわ」

自分の知る魔法で、いかにしてプナハの居場所を突き止めるか。

――探知魔法? 召喚魔法で無理矢理呼ぶ?
   送還魔法で居場所に私を飛ばす?
   現実的では無いわね。

――いっそ、専門分野の魔法に応用を利かせるのは?
   氷魔法をどうやって活かそうかしら。

そこで、プナハの専門が水魔法だったことを思い出す。

――待って。プナハは水の精霊混じり。ということは水を纏っているようなもの。

そう、それなら。

「プナハの纏う水の音を聞き拾えたなら――」

氷魔法専門なだけあって、水魔法も得意なほう。
目を閉じ呼吸を整え、足下に魔方陣を生み出す。
集音器の機能を持たせたその魔方陣の上で、水の音の共鳴に耳を澄ます。

コーレニン中に張り巡らされた水路の音に混じる、
特異でふわついた、微かな音。

だいたいの位置を割り出せた。

静かな足取りで、プナハへの接近を試みる。
まるで水溜まり上を歩いたときの波紋のように、一歩進む毎に魔方陣が広がっては消える。

向かう場所は、おそらく特別な場所ではない。
それでもゆっくりとだが、確実に、手応えを感じる。

反応を強く感じたのは、何の変哲もないただの廊下。
部屋に入ってはいない。きっと、ただ歩いているだけ。

そして、遂に――

「見つけたわ」

  *

しっとりした静かな声にプナハが振り返る。
そこにいたのは、

「えっと――… どちら様でしたっけ?」

プナハの返答に相手は思わず拍子抜けするが、気を取り直して自己紹介を始めた。
「オシャーンの魂系337代目、エミウルよ。
 あまり関わったことが無かったとはいえ、ちょっと酷いんじゃないかしら」
「ああ、オシャーンの魂系のエミウルさん!
 どうしてまたこの時代に?」
相手は再び脱力しかける。
「どうして、って…誰のせいだと思っているの?
 さあ、オシャーンの日記を頂戴」

差し出される両手。

プナハはきょとんとし、エミウルの手のひらと顔を交互に見つめた。
「…日記を探しにこの時代に?」
「そうよ、あなたと日記を探す為にね」
何を言っているのだと、エミウルも首を傾げる。

「えっと…あの、カシェさんから日記を渡して貰っていないんですか?」
「何の事かしら?」
眉を顰めるエミウルに、思わずたじろぐ。
「え…あの、エミウルさんに渡して貰えると仰るので預けたのですが」

相手は言葉を失った。
固まったまま、視線だけこちらに向かってくる。

やっとの思いで、エミウルは微かに口を開けた。

「受け取っていないし、聞いてすらいないわ。
 そもそも、あのひとが私に渡すわけ無いじゃない…」
声が震えだしていた。
そこでプナハは初めて、自分が不味いことをしてしまったことに気付く。

エミウルはプナハに詰め寄る。
「カシェパースが、日記を持っているの?」
プナハはおずおずと頷く。
「彼が誰にも渡していなければ…」

エミウルは何も言わずに立ち去る。
カシェが何処にいるのか、プナハは知り得ないし、見当も付かないだろう。
それに、プナハよりもカシェと関わる時間の長かった自分の方が、カシェの居場所を予測できる自信はあった。





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