オシャーンの日記編 (10) |
コーレニン北東部 図書館 1000代目の時代の図書館。 「この時代にカシェパースがいるなんて。 日記のことを知らないなんてあり得ないわ」 でなければ、敢えて時間移動する理由が見当たらない。 エミウルは真っ直ぐ階上に上がる。 オシャーンの日記が並べられていた本棚には、337代目当時と同じように日記が置かれていた。 一番右端にある最終巻を手に取る。 「この時代にあるということは、337代目の日記は取り戻されると約束されているのかしら」 表紙に手を掛けたところで、エミウルは固唾を呑む。 「ううん、必ず取り戻さないといけない。 全て私に掛かっている」 最後の該当ページを開く。 「…?」 エミウルも読んだことのある『100万年後』についての書き込みが見当たらない。 ページを破られた形跡も無く、まるで最初から記載が無かったかのように、消えていた。 ――…誰かが消したの? ――それともオシャーン、あなたなの? 魂の本で直接本人に確認したい気持ちを、ぐっとこらえる。 仮に本の中のオシャーンが、この時代にエミウルが来ていたことを含め全てを知っていたとしても今ここで相談すると、余計な心配を掛けてしまう。 それに、代々守ってきた日記を自分の代で無くしてしまったという悔しさもあった。 ましてやルーに聞けるはずも無かった。 時間移動のモラルを度外視して、自分がこの時代に来ていると知られたら? 日記の事情を知られたら? 自分のせいで、オシャーンの魂系としての面目が丸潰れになる。 言うに言えない状況であることは分かりきっていた。 どうやって探すのか、途方に暮れかけた自分に気付く。 「持ち出すとしたら……誰?」 * 337代目の時代の図書館 サントは魂の本を開いた。 「1000代目の時代で聞いて来たよ」 ウェイとウィーアは、その意味をすぐに理解した。 「そこでの私達は、どこまでを答えたの?」 「残念ながら、一番聞きたい出来事そのものについては教えて貰えなかった。 早めの日時だったしね。 代わりに教えて貰った事は何点かあるけれど、今のウェイとウィーアには……内緒?」 双子は首を傾げ合う。 そして何かに気付いたのか互いに顔を見合わせ、ぷっと吹き出した。 「998代目に地球とコーレニンとのルートが開く事と、 1000代目にルーベリーとコーレニンとのルートが再び開く事?」 「あたし達はそれを知った上で子孫達に会ったから、内緒にすること無いよ!」 「なんだ〜、良かった…」 サントは脱力しかけたが、先のウィーアの発言に引っ掛かる点があったことに気付く。 「…子孫『達』?」 双子の表情が固まる。 「1000代目、双子では無かったよね?」 「「それは…」」 「僕も関わることになるのかな?」 「「…言えない」」 「それとも、他の時代の誰か?」 「「…言えない…」」 ここでサントは、999代目の彼を思い出す。 彼についても尋ねたところで答えは返って来ないだろう。 先のことも含め、双子に「ごめんね」と言って苦笑し、魂の本を閉じる。 自ら1000代目の名前を尋ねた時点で、日記の出来事に関わらざるを得ないことは予感していた。 プナハを一人で送り出した時は、 「余計な事に首を突っ込むべきでは無いが、プナハが動くのなら裏で支援出来ることはしよう」 と考えていたのだが。 「プナハが日記を見つけたのは、『いつもは通らない本棚』だったかな」 遠目に階上を見上げた。 階段を探し、上り始める。 * エミウルは、一旦337代目の時代に帰って来た。 このまま1000代目の時代で宛もなく探しても時間を浪費するだけ。 一度リセットするのがベターだと判断したからだ。 337代目の時代に帰った後、真っ直ぐ図書館に向かう。 日記はやはり戻って来ておらず、肩を落とした。 再び途方に暮れかけたところで、背後から声を掛けられる。 「日記を探しているんだね」 サントだった。 「どうして、……まさか、あなたが?」 サントは首を横に振る。 「でも、心当たりはあるよ。 オシャーンの魂系の君が動くだろうなとは思っていた。 プナハが持ち出して、そのまま1000代目の時代に行ったよ。 日時は――こんな感じ」 差し出されたメモ書きを受け取る。 先程自分が1000代目に行ったときの日時とほぼ同じだった。 現地ではカシェとも遭遇したし、あまりにもの偶然性に驚く。 先の日時はオシャーンが記した時間よりもだいぶ早い日時だったことを、自分でも分かっていた。 とはいえ、記された日時に真っ先に飛ぶのは、なぜか心が引き留められるのを感じた。 日記の該当ページに併記された魔方陣を暫く見つめ、時間を表す箇所の一部を書き換えた物を使おうと決めた。 なんとなく、オシャーンならその箇所を書き換えるような気がしたから。 一方でサントは、 「計算して日時を割り出して…せっかくなら下見もしよう、ということでこの日時になった」 と話していた。 サントは主に数式魔法を使うが、プナハのメインは魔方陣。 記された魔方陣をそのまま使えば計算の必要は無いのに不可解だ、とエミウルは思う。 しかしすぐに、プナハは精霊混じりなのだから魔方陣も特殊なのだろうと思い直す。 ――どうしてプナハが日記を…? そこはどうにも不可解だった。 目の前の彼に尋ねても、答えが得られようが自分は納得しないだろう。 手渡されたメモ書き越しに、サントを見つめる。 「…1000代目に行きなさい、ということ?」 サントは首をどちらにも振らなかった。 「行けとも行くなとも言わないよ。 僕は今すぐには行けないから、行くなら君の方が良いかなと思っただけ」 サントの言うことは腑に落ちないが、自分が行くしか無いのだと心を決めた。 |