転換石編 (17)
 

最後に残ったのは、至って普通に見える扉だった。
しかし、開けようとしてもびくともしない上に、鍵穴が見当たらない。
それらしい物といえばドアノブの下に掛かった小瓶。
小瓶の中を覗き見ると、小さな粒が1つ入っていた。

「これ、さっきのヒント…?」
ユイユは改めて紙片を読み返す。

「小瓶の蓋は開かないし…
 中の粒を重くするってこと?
 こんな小さいのを重くするなんて…」
かつてマホガニーの部屋で見せて貰った質量変化の魔法を思い出す。
あんな高度な魔法…と俯くと、耳元に精霊の声が届いた。
「(それは花の種よ。種なら生長させてしまえばいい)」
「(どうやって?)」
「(呪文なら知っているわ。メイボセの専門は植物魔法だったから)」

そうして精霊から教わった呪文を、ユイユは心の中で繰り返す。
補助魔法道具と共に握り直した杖を、小瓶に向けた。

「テクィア・スイ」

杖をそのままに中を見つめ続けると、
種が割れ、小さな芽が顔を出した。

ユイユは驚いて凝視する。
更に芽は生長し本葉を付け、
反対側からは根が小瓶の内側を這うように張り、
やがて、花が咲いた。
生長が止まると同時に、扉の内側から鍵の開く音が聞こえた。
ユイユは急いで扉を開ける。
ふと、フォンエと作った補助魔法道具に目を落とした時、ヒビが入っているのに気付いた。
「まだ…使える、よね」

扉の裏に刻まれた、最後のヒント。

『名前はなあに?』

何かしらの名前が、この先の鍵になる。
ユイユは刻まれた文字を目に焼き付けた。

いよいよだ。
階段の向こうに双子の姿が見える。
双子もこちらを見ていた。

が。

「階段が崩れ落ちている…!」

ユイユには箒という手段は無い。
双子のもとに行くとしたら――

「(この植物を更に生長させることは出来る?)」
精霊に尋ねる。
「(きっと、出来るわ。そのお花にも聞いてみたら?)」
「(この植物に?)」

ユイユは小瓶の花に向き直り、杖を構えた。
「(お花さん…聞こえる?応えてくれる?)」
もともと声を持たざる物と対話することなど、出来るのだろうか。
疑う気持ちのままだと、きっと応えてくれそうに無い。
信じよう。
ユイユは決めた。

気持ちが伝わったのだろう。
直接言葉としての返事は来なかったが、
ユイユの頭の中に、1つ、また1つと、取るべき行動が降りてきた。
きっとそれが、小瓶の花の答え。

「(ありがとう。やってみるよ)」
小瓶の花と転換石の精霊に向けて、ユイユはお礼の気持ちを込めた。

ユイユは小瓶に杖を向けた。

「リュオ」

ぱっくりと綺麗に割れた小瓶から、花を取り出す。
根が床を這うように合わせ、
倒れないように茎を指でつまむ。

改めて補助魔法道具と共に握った杖を、花に向ける。
「(無理なら無理って言ってね)」

「テクィア・スイ」

するすると根が広がり始め、
同時に茎も伸び出した。
茎が伸びるのに合わせ、花が階段状に開いていく。

「こんなに大きくなる花だったの?!」
双子も驚いて、迫ってくる茎と花に目を凝らす。

あと少しで最上階に届きそうというその時、ユイユは手の中に違和感を感じた。
――石が…割れた…?!

一瞬気が動転するが、ひとまず目の前の植物に集中し直す。
そして、最後の一輪の開花を見届けた。

息を切らしながら手の中を見ると、
やはり補助魔法道具の石が割れていた。

ユイユはフォンエに振り向く。
「フォンエ、あの時に作った魔法道具…割れちゃったよ」
「本当に?! …なら、仕方無いね。
 壊れたのが杖じゃなくて、まだ良かったんじゃない?
 ユイユの本当の力、見せてやりなよ」
ユイユは力強く頷いた。

「(お花さんを踏んで渡ることになるけど、大丈夫?)」

「(――ありがとう、そっと・速く渡るね)」

一番手前の大きな花の上に、最初の一歩を乗せた。





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