転換石編 (15)
 

レイミンとロイシンを探すべく、ユイユは工房から飛び出した。
フォンエには「無理して来なくても大丈夫だから」と言い残した。
同じく工房に残ったマホガニーに、フォンエは不安気に声を掛ける。
「探すって言ったって、宛でもあんの? 部屋にいるとは限らないでしょ?」
「だからといって見つからないとは限らないよ」

マホガニーは金属装飾の施された石を取り出す。
2年前のルーベリーでの旅の後に、ルーから託された物。
その実体は、コーレニンとルーベリー間のルートの『鍵』を分割した物だ。
同じくして『鍵』を託された相手に向けて、『鍵』を通して呼びかける。

「ベベル、今大丈夫?」

『――わっ、マホガニー?!
 全然大丈夫だけど!
 これ、魔法族同士でも通話出来たのね…』
「らしいね。
 最近、レイミンとロイシンを見かけることはあった?」
『北西部のとある部屋だかに行くってちらっと聞いたわよ。
 ま―た何か始めようとしているみたいね』
双子の友人であるベベルに尋ねて正解だった。

『わざわざ『鍵』を使ってまでの用事なんて、よっぽど大事なのね?
 あたしに出来ることがあったら協力するわよ』
「ありがとう、またその時にお願いするよ」

通話を終えるや否や、マホガニーは机に立てかけた杖を引っ掴んで駆け出す。
「ユイユは双子の部屋がある南東部に向かっているはず!
 迎えに行ってから双子のもとに向かうよ!
 フォンエは工房に残っていて」
フォンエが小さく頷くと、マホガニーはそのまま工房を後にした。

  *

マホガニーはコーレニンに点在する時空移動ポイントを通じて南東部へ向かった。
「ユイユ―…?」
時折呼びかけながら早足で進む。
途中、小さな人影に出くわした。
「やあララーノ、久し振り」
ユイユの魔法の特訓をしていた頃に会って以来だったような。
ララーノは溢れんばかりの笑顔をマホガニーに向ける。
「マホガニー、ひさびさ!」

マホガニーはララーノの目線に合わせて軽くしゃがむ。
「ユイユを、――海老さんを、見なかった?」
ララーノは大きく頷き、双子の部屋のある方へと袖を向けた。
「あっち!」

「レイミンとロイシンの部屋?」
ララーノは再び大きく頷いた。
「たぶん!」
「そっか」
マホガニーはララーノの頭をポンポンと撫でる。
「ありがとう」
「うん!」

双子の部屋に着くと、扉の前でユイユが立ち尽くしていた。
「レイミンとロイシンは?」
いきなり背後から声が掛かったので、ユイユは驚いた様子で振り返る。
「マホガニーかぁ、びっくりした。
 部屋にはいないみたいで」
「だろうね。
 今、それでユイユを迎えに来たところ」
「? 居場所を知っているの?」
マホガニーは頷く。
「ベベルから聞いた。多分間違いは無いと思う」

「本当に?!
 何処って?」
「北西部」
「…だけ?」
ユイユが言葉を詰まらせると、マホガニーは申し訳なさそうに頷いた。
「ベベルも詳しくは把握していないみたいで」
「そっか―…」
ユイユが項垂れたその時、ロイシン側の扉の違和感にマホガニーが気付いた。
「扉に…文字?」
一通り読んでみるが、コーレニンの言葉にしては違和感がある。
「何々?」
ユイユも扉の文字を覗き込む。
「何これ。単語が単語になっていないよ」
2人で文字を凝視する。

暫くして、マホガニーが扉に向けて杖を構えた。
深呼吸した後、ゆっくりと左上に向かって弧を描く。

それに合わせて文字の並びが動き出した。

ちょうど並びを90゚回転させたところで、マホガニーは杖を下ろした。
「これで読めるはず。
 『ユイユへ。
  ここに来たということは、転換石が誰のもとにあるか分かっているんだよね?
  現在、ハルテの双子は北西部にいま―す。
  食堂周辺の丸い広間から北西に伸びる廊下、
  その向こうの階段室の、一番奥!
  
  転換石が欲しかったら、ここまでおいで!
  要らないんだったら、扉の隅にでも書いておいて!
  あげても良いけど、タダではあげたくないんだよねっ!
  ロイシン・ハルテより』」

ユイユは口をぽかんと開ける。
「扉に書いて伝わるって…
 もしかして、僕達がここにいることも筒抜けなのかな」
「かもしれないね」
「それなら尚更――行くしか無いよね」
真っ直ぐな眼差しをマホガニーに向けると、肩をぽんと叩かれた。
「そう来なくちゃ!
 箒用通路で行こう。乗って」
マホガニーが自身の大きな杖に跨がり、
促されるままに、後ろに乗り込む。
「――って、ちょっと待って!
 通路の入り口はまだ先だよ?!」
「大丈夫。一直線だし、歩行者も無し。
 しっかり掴まって。
 いくよ」
床を蹴る音が静かに響いた。

  *

コーレニンの中をぐるっと通る、箒用通路。
2人の乗る杖が空気を切る音だけが反響し続ける。
薄暗い通路に、丸い明かりが等間隔で続く。
ユイユは自分の箒をまだ持っておらず、たまに誰かに乗せて貰うぐらいだった。
最後にここを通ったのは、何ヶ月前だっただろうか。

そんなことをユイユが考えているうちに現場最寄りの出入り口に到着したようで、マホガニーがゆっくりと杖を止める。
2人が通路から出ると、目前に食堂を囲む広間が広がっていた。
ユイユにとっては初めての光景だった。

マホガニーが振り返り、出入り口に刻まれた表示を確認する。
「こっちがちょうど西だから、
 双子の居場所はあっちだね」

マホガニーの指した細い廊下に入り進むと、奥の扉に突き当たった。
「『階段室の奥』って書いてあったから、この扉の先だよね…」
ユイユが棒状の取っ手を掴み押すが、鍵が掛かっているようだった。
「?」

「ユイユ」
後ろから見ていたマホガニーが、取っ手横の窪みを指さす。
「この形… ユイユの杖にぴったりじゃない?」
確かに。
試しに自分の杖を填めてみると、鍵の開く音が聞こえた。
「開いた…けど、
 なんで僕の杖で?」
「双子が細工したのかもね。レイミンの専門は鍵魔法だし」
「そうはいっても、こんなにぴったりなんて怖いよ」
ユイユが口を曲げる。

「まあまあ…
 ユイユの杖が鍵になったことを考えると、ユイユ以外は来るなってことなのかもしれないね」
マホガニーの言葉にユイユは頷く。
「一人だとやっぱり不安だけど…
 だけど僕、やってみるよ。
 マホガニーは、僕が辿りついたことをフォンエに伝えてくれないかな」

マホガニーは穏やかに微笑んだ。
「分かった。ユイユも頑張って」
ユイユは意を決して頷いた。





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