転換石編 (13) |
双子には、気になることがあった。 何故あの時、自身を転換石だと名乗る精霊は嘘をついたのか。 時間移動をした先で、実際に転換石を見せて貰った双子は、 『嘘つきの魔法道具』を『嘘つき』だと認識していた。 互いの両手を握る。 「「トートルム! 同一時空間より『転換石』を召喚します!!」」 しかし、どれだけ待っても、何も起こらなかった。 考えられる理由は1つ。 『召喚したい物の名称と、その物が名乗る名称が、違うから』 双子はすっかりそう信じ切っていたので、魔法がうまく働かなかったのだった。 自分達の記憶に嘘をついて、知らない振りをして魔法を掛けるのも、難儀な話。 以前ユイユに「……それ、転換石じゃない」と言われ石を手放したことを、後悔した。 しかし、もう仕方ない。 魔法道具のことなら、工房に伝手がいる。 双子は工房へと向かった。 * 明くる日も、フォンエはルーのことが気掛かりだった。 「やっぱりちょっと、怖いな…」 そんな時。 「精霊さんに、お話があるの」 そう言って工房に入ってきたのは、レイミンだった。 フォンエは思わず身構える。 「な、何? 私はユイユに荷担していないよ」 「協力してくれて嬉しいわ、ご苦労様。 んっとね―、ルー様に突き出す条件を増やしたいの」 レイミンの返事に、フォンエは眉を顰める。 それに気付きながらもレイミンは続けた。 「くるくる海老さんが転換石を持っていたら、取り上げて欲しいの。 本物でも、自称転換石でも、どちらでも構わないわ。両方あると嬉しいけど。 断っても、ルー様に突き出しちゃうから」 断れるはずが無かった。 フォンエが渋々首を縦に振ると、レイミンは上機嫌になった。 「そう返してくれるって信じていたわ! それと、瓶を1つ持って行くわね」 そう言って棚の瓶を物色し始めた。 「…あら? この印はなあに?」 レイミンが指した瓶を、遠目に確認する。 「マホガニーが使うか迷っている瓶だよ。 近いうちに取りに来るだろうから持って行かないでよね」 レイミンは「あ、そう」と返し、物色を続けた。 暫くして、「1つ頂戴したから」と、棚の引き戸を閉め、そのまま工房から出て行った。 フォンエは溜息をつく。 ――そういえば『本物でも、自称転換石でも』って、どういうことなんだろう… 先のレイミンの言葉。 特に深い意味はないだろうし、いずれにせよ『転換石』は1つなので、一旦は忘れることにした。 * 図書館 ふと気になることがあって、ユイユは部屋に戻らず図書館に来ていた。 魂の本を開きかけたところで、扉が開かれる音に気付く。 「ここにいたんだね。 図書館に寄ってからユイユの部屋に行こうとしていたから、ちょうど良かった」 マホガニーだった。 ユイユの部屋、工房、図書館、それぞれ離れてはいるが、彼なりに都合があったのだろう。 深くは尋ねないことにした。 ユイユは開きかけた本の表紙を下ろす。 「さっき、フォンエと何を話していたの?」 「双子が転換石を狙っているということ」 最近の双子の動向を把握してはいなかったが、想定内ではあった。 「フォンエが僕に協力できないことと関係ある?」 「双子に圧力を掛けられているみたいだね」 ユイユは首を傾げる。 「なんで? 立場的にもフォンエが弱みを握られることは無いでしょ? あるとしたら、――」 ――魔法族と精霊との立場の差。 すんでの所で言葉を止める。 「…その辺りについては、あまりフォンエに干渉しないで」 ユイユは俯きがちに頷いた。 マホガニーが奥の本棚へと歩いて行った後、ユイユは再び魂の本を開く。 「メイボセ、転換石のことで一つ気になったんだけど」 メイボセが反応する。 「いいわよ、何でも聞いて」 「転換石の元になる石って、1つの世代の間でも、その姿を変え続けた石なんでしょ? じゃあ、なんで998代目の頃と同じ姿で残っていたの?」 メイボセは、背後から心配そうに覗くフッセに目配せをした。 「フッセは『転換石』としてその石と契約を交わしていた、とは聞いたでしょ? 私は、杖として契約を交わしていたわ。 契約を切らないまま世代交代を迎えたから、今もその姿なのかもね」 「だったら…どうして石に憑いていた精霊は、いつまでも『転換石』だと名乗っていたの?」 「転換石として生きた時代も、変わり続ける石として生きた時代も、杖として生きた時代も、 この精霊にとっては全部正解なの。 私も、杖に愛称を付けていたわ」 「なんて名前?」 「『アピアス』。 『信じ続ける』という意味合いの名前よ」 アピアス。ユイユは呟きがちに復唱する。 「それよりユイユ! この前は聞き損ねたのだけど魔法の専門は決まったの?」 ユイユと、背後のフッセが同時にびくつく。 「メイボセは植物魔法だったよね…」 「そうよ、本にも書かれているでしょ」 確かに。 それなら魂系の長であるフッセは…? 正直なところ印象に残っていなかったので、1代目のページを開く。 『専門:無し』 道理で。言葉を失った。 開かれたページに移動してきていたフッセが、おずおずと口を開く。 「実はね…」 ――コーレニン1代目の時代―― 「――そろそろ専門は決まったのか?」 「そのことなんですが、ルー様… …他のひと達を補助する立場でいさせてください。 まだ、自分でこれだと言える分野が見つかりません。 各分野の専門のひと達の手助けなんて、おこがましいけれど…」 「魔力転換を使えば、どの分野にも対応できる魔力を得られるのだから、 好きな分野を選べばいいじゃないか?」 ルーの言葉にフッセは首を振る。 「必ずしも"好き=得意"ではないし、 そこで割り切れるほど僕は潔くありません。 だけど、どんなに目立たないことでも、どんなに些細なことでも、 誰かの力になれるのなら、どんな分野でも意地になれる… ルー様もご存知のはずです」 「何でも屋、か。 器用貧乏という言葉もあるが、そうはならないと信じている」 ―― フッセは、選ばないことを選んだのだった。 「得意分野が見つからないからって焦ることは無いんだよ。 好きなことがあるのなら、そこから地道に伸ばしていけばいい。 好きなことも分からないのなら、見つかるまで沢山蓄えを作ればいい。 僕の好きなことは、たまたま分野の枠組みとは別のことだっただけ」 ――蓄え、かあ… 最近、工房に通い始めたことで日常が少しだけ変わったような気がしている。 そのことをフッセに話すと、 「続けていけば、もっと具体的に何かが見えてくるはずだよ」 フッセの後ろに来たメイボセと共に、柔らかい微笑みを見せたのだった。 「ありがとう。早速、工房に行くよ」 ささやかな清々しさを感じながら、魂の本を戻し、図書館を後にした。 |