転換石編 (8) |
工房の精霊・フォンエ 私は、自分が精霊であることを隠しているわけじゃない。 もう今の私は、魔法族と同じようには生きられないから。自分への戒めでもあるよ。 そんなある日に工房に来たひとはくすりと笑い、こう言った。 「へぇ。『精霊ほど気まぐれな存在は無い』ってたまに言われない?」 精霊への揶揄言葉。 胸をグサリと貫いた。 私は出来る限り平生を保とうとした。 「た、たまには言われるかな? それがどうかしたっていうの?」 「気まぐれなんだったらちゃんと釘を刺しておこうかな、ってね。 最近、この工房にくるくる海老さんが出入りしているでしょ?」 くるくる海老。髪型を指しているんならユイユのこと? 「……だったら?」 相手はさっきよりもニイと笑った。 「い―い? くるくる海老さんが来ても、荷担しちゃ駄目だからね!さもないと――」 声のトーンをそっと落とす。 「貴方のこと、ルー様に突き出しちゃうよ?」 「――!!」 汚いヤツだと思った。とても汚いヤツだと思った。 精霊を利用するのが魔法族かっ、そう怒鳴りたくなったけど、なんとか我慢した。 そのひとが工房を出てった後にさっきまでのことを思い返して、また頭がカッカしそうになったけどでも、魔法族みんながみんな汚いわけじゃないんだよね…。 私自身、『魔法族として生きた』ことがあるから知っている。 自分が精霊だって気づいてからも、色んな魔法族達に会ってきたから知っている。 皆が皆、汚いだなんてあり得ない。 言ってしまえば、精霊にも汚いのだっている。 ――私がその汚い精霊だったりしてね。 * コーレニン西部 某廊下 ロイシンが頭の後ろで腕を組み、壁にもたれて待っていたところ、双子の片割れがいかにも上機嫌に工房から出てきた。 「精霊さん、何て?」 「『くるくる海老さんに荷担すると、ルー様に突き出しちゃうよ』って言ったら、すっかり黙っちゃったぁ」 レイミンのにまにま笑顔から察するに、本当にトントン拍子に進んだらしい。 2人はとりあえず工房周辺から離れる。 「ベベルからマホガニー、それで精霊さん。 興味本位でユイユの動向を知ろうと思ったらまさかのだよ!」 「ベベルもマホガニーも『人のことをそこまでべらべら喋るのもなぁ』って質だから、深く掘り下げるのには時間かかったけど〜」 ロイシンもうんうんと頷く。 「こう言うのもあれだけどさぁ、ベベルもマホガニーも精霊さんも、転換石探しに加わってるんなら相当な脅威だと思うんだよね―。 ベベルは頑として協力しないっぽいけど。マホガニーも、転換石そのものに直接関わっているわけじゃないみたいだし。 精霊さんは…とにかくフェアじゃないよ―!」 転換石=魔法道具、よって、魔法道具のエキスパート=脅威。 つまりはこういう方程式らしい。 「転換石ってとにかく凄そうな魔法道具、そんなイメージしかなかったけど… なんだか本当に凄そうね…!」 『凄そう』なことに結局変わりはないらしいが、レイミンの目は今までより爛々としている。 「あぁもう、1代目の時代に行って直接聞ければいいのに!」 「えっ…」 レイミンとロイシンは顔を見合わせる。 「…時間移動の、魔法…?」 ロイシンの問いかけに、レイミン自身も目を丸くしながら頷く。 「聞いたことはあるのよ、時間移動の『イストリール』。 空間移動の『イストワンネ』と一緒に聞いたっけ。 誰から教わったかは覚えていないんだけど…」 ロイシンは拳を口に当てて考え込んでしまう。 まだ迷いが残っているのか、ぽつりと、呟いた。 「時間移動は、やらない方がいいんじゃないかなぁ?」 「えっ」 予想外だった。 「なんで? 『魂の本』でも分からなかったのよ? 1代目に直接聞かないと分からないことでしょ? 何代目かの誰かが残した、魔法道具についての本にもなかった。なんで? そんなに凄い魔法道具なら、どうして書かれていないの? 心当たりのあるのを徹底的に調べても出てこなかったでしょ?」 双子は図書館にも行ったし、魔法道具がありそうな所も色々見てみた。 しかし、見つからなかった。 そもそも、どんな色形をしているか分からないものを探すこと自体が、無茶な話だ。 「だから、ね? 直接フッセって人に会って、聞きたいの」 ロイシンが口を開いたのは、2人の間で小さく沈黙が流れた後だった。 「レイミン、その気持ちはよ―く分かるよ。あたしだって直接聞けたらどんなにいいかって何度も思った。 場合によっては、フッセから転換石を頂いちゃうこともアリなんだと思う。 だけどさ、それと時間移動のことは話が別なんじゃない?」 「別じゃない!」 「時間移動をすることの重みが分かってるの!?」 レイミンの表情を見て、思わず怒鳴ってしまったことに後悔した。 「…時間移動をしなきゃいけないほどの理由が、あたし達にはあるの?」 レイミンは唇を噛み締める。 「ただ、転換石のことを知りたいだけじゃ駄目なの…? この時代にずっといても、いつしか答えは来てくれるかもしれない。 でも、待っているだけなのは嫌… せっかく方法があるのに、どうして敢えてそれを避けなきゃいけないの…?」 「…」 ロイシンは、伏し目がちになった。 「…また明日、同じこと聞くからね」 そう言い残すと、一人去ってしまった。 |