| ズィナ編 (5) |
ウェイウィーアの魂の本の中 ベベルに「俺に何も訊くな」と残してフーラルが向かった先は、337代目のページだった。 「フーラル…リヴィエに会いたい?」 「同情は要らねぇよ、サント。俺とあいつは覚悟して魂の本に入ったんだ」 フーラルはふぅ、と溜息をつく。 「皆そうだって事ぐらい分かってるけどさ、…残酷だよな『魂の本』なんて。 都合のいいときに意識を持てばいいからまだましだけどな」 「確かに僕達がこうしてる間も、この本の中の殆どの人は無意識状態。 記憶を保存するための本、それからその記憶を今の世代に伝えるための本だからね」 「皆が一斉に『死ぬ』世界だからな。こ―でもしねぇと何も発達しねぇんだろ―な」 また溜息をついた。 地球での発展ぶりに比べたら、コーレニンには発達なんてものがあるのか疑いたくなってくる。 だが、こうでもして魂の本に意味づけをしてやらないと、何となく気が収まらなかった。 コーレニン図書館 あの蔓植物騒動からそれほど日も経っていない頃。 ズィナは本棚の影から、こっそりと机のあるほうを見つめる。 聞きなれない声がしたからだ。 正直、他人と接触しすぎて自分の本性がばれないか心配だ。 「ちっちゃいから」といって可愛がってもらう役は、ララーノで充分だと思っている。 初対面だから流石にそういうことはされないだろうが、好奇の視線を向けられることは度々ある。 もともとそんな理由で実際に可愛がってもらったことは、数えられるぐらいしかない。 というか、そんなに「ちっちゃい」という事実を突き付けないでほしい。 ……1代目の頃は背が高かったこともあり、こういうのには慣れていない。 今みたいに、こそこそ行動するのには多少有利なのだが。 ――オレンジの表紙… だけど此処にいるのはべベルじゃない…? この前の紅目といい、何故違う時代の者がこの時代にいる? ――何故、敢えてこの時代を選んだ? 嫌な予感が胸の中で疼く。 もしかして、自分のことを知っているのではないか? シューナの魂系の本は、1代目に話しかけても何も反応しない。 不審に思った子孫が友達に協力を求めて―― ――あり得ない。 何故この時代だと特定した?根拠は何もないというのに? コーレニンに変化が起きている。それだけは分かる。 だが、求めているのはこういう変化ではない。 ミルフィーユの各層の秩序を、フォークでぶっ刺して壊したような。 今起きている変化は、そういうものである。 時代と時代とが混じるなんて、フォークで刺しまくってパイ生地がぼろぼろになったような… そんなミルフィーユ、食べたくもない。 ――ミルフィーユ、好きなのに… 要らない想像をしてしまった。 ――ところであれは誰だろう? 魂の本と会話しているようなので、耳をそばだてる。 「それで、1000代目の時代に何が起こったのかな」 「――え、あぁやっぱり…早めに来たからまだ起きていないんだね」 「あ、いいよ。また来るだろうしね。ところで1000代目は何て名前?」 本の中から発せられる声はこちらには聞こえないので、直接聞こえるほうから内容を推測するしかない。 その後も耳をそばだて続けるが、未だに状況を掴めない。 ――やっぱりウェイウィーアの魂系か。 1000代目の時代に「起こった」? 何故過去形なんだろう? 時系列のズレというものだろうか。 頭の中でミルフィーユがもろもろと崩れ始めるが、会話はまだ続いているみたいなので脳内を一旦リセットする。 「1000代目って、この年齢であの出来事に直面するんでしょ?」 「何故知っているのかって? 日記を読んだんだよ、オシャーンって人のね」 ――オシャーン!? まさかここでその名前が出てくるとは思わなかった。 ――確かに日記を溜め込んでいたらしいなあいつは… 1代目当時に日記に手を伸ばしたことはあったが、最初に「未来の為の記録でもある」と書いてあったので、1代目である自分には必要ないと判断し、それ以降日記を手に取ることはなかった。 ――あいつのことは怪しいと睨んではいたけど… その対象となる人物はシューナのことを「会ったことあるかもしれないけど知らない人」というカテゴリーに置いてただなんて、思いも寄らないだろう。 ズィナはそろりそろりと図書館の階段を上る。 図書館内は吹き抜けになっているので、階下から気付かれないように注意して行動しなければならなかった。 ――どの本棚だっけか… 日記に手を伸ばしたのなんて、自分の記憶の中では何百年も前の話なので、すっかり忘れていた。 「深青緑の表紙だった気がする」という、思い出そうとすると頭がキリキリ痛むほど曖昧な記憶を頼りに、日記を探す。 更に上の階に上った時に、やっと同じ背表紙がずらりと並んだ本棚を見つけた。 記憶の通りに深青緑の表紙だったので、ちょっぴり嬉しい。 一番新しいと思われる巻を取って、最後のページを見る。 『990歳 8月7日』 ――残りの10年は? ――最後の10年、何が起きていたっけ? |