ズィナ編  (4)



  コーレニン東部 滝の螺旋階段

ざあざあと音を立てて落ちる水を眺めて、手すりに座っていたズィナは頬杖をついて溜息を漏らす。
正直、リヴィエみたいな者が自分の先祖であり前世であり同じ魂だなんて、信じられないし信じる気にもなれない。

――あの脳天気さは何処から来るのだろう…

目を伏せがちになったところで、ズィナははっと思い出して服にしまっていた紙切れを取り出した。
「ルーからの指令書… もうそろそろだった」


  コーレニン大広間

入ってきたズィナに気付き、ルーは相変わらずの声で言った。
「お、ちゃんとサボらずに来たみたいだな?」
「今までにサボったことは一度もないと思いますが」
ズィナはそのままルーに近づく。
「で、何ですか?今日の件は。
 どうせ呼び出すなら『来い』以外のことも書いてください」
適当な指令書を送りつけるのも相変わらずらしい。

「魔法をかけるのは大広間でじゃないんだが… お、ベベルも来たか」
「は―い、って…あれ?ズィナも指令書?」
ベベルはズィナもいるのを見つけ、そのまま入り口で立ち止まる。
「ベベルさんもですか」
「あ、うん…そうだけど」
やはりベベルの指令書にも『来い』としか書かれていなかったのだろうか。
ズィナもいるのが意外だったようで、ベベルは少々入りかねているようだ。

ルーは敢えてその空気をかち割るように、話を切り出してきた。
「あ―ベベル、どうせこれから東部に行くからそのままでいいぞ」
「ルー様も行くのですか―?」
ベベルは遠くから問いかける。
「私は此処にいるから、2人だけで行ってこい。
 ズィナ、これが詳しいことな」
そう言って、ルーはズィナに紙切れを渡した。
「場所は、滝の螺旋階段な」


  コーレニン東部 滝の螺旋階段

――さっき此処にいた時に異常はなかったと思うけど…

階段を上り始めるところで、ズィナはルーから貰った紙切れを読み上げた。
「『階段の途中に蔓植物があるからそれを駆除しろ。
  最初は小さな芽だったのに、ここんとこ異常に成長している。
  滝の水の一部がその植物を伝って流れているから、最近の雨漏りみたいなのはそれが原因だ』
  …だそうですよ」
「へぇ〜蔓植物ねぇ… そんなのそれ専門の人でいいんじゃない?なんであたし達なわけ?」
ベベルは雷魔法専門。
「何か下の方に書いてあるから読みますね…
 『これは自分で勝手に根付いた植物じゃない。
  あんまりこういう事はやりたくないが、魂系の連帯責任でお前らがやれ』と」
――植物… リヴィエのような気がしてならない…

すぐに心当たりが浮かんだズィナ。一方ベベルは、
「え…あたしの魂系も関係あるの?」
思い当たらないようだった。
「あ、まだ下に書いてありますよ。
 『因みにこの植物、炎が合成してあって燃やせないからな』」
「フーラル!」

階段をかけ足で上りながら、ベベルはズィナに訊いた。
「ズィナと同じ魂系の人って、999代目?」
「フーラルさん…という方もなんですか?」
「えぇそうよ、後で図書館に行って問いつめてやるんだから!」

途中まで上ったところで、2人はぴた、と立ち止まった。
下から見上げても気付かなかったが、その植物は、あまりにも分かりやすいものだった。


「これ…よね」

階段から伸びた蔓植物。
段の横から伸びているものの、滝に注意してみればすぐに分かった。
やや太めの蔓植物は滝をぬけ、螺旋階段の窓の向こうへと伸びていた。

「階段は土じゃないから無理だと思うけど」
試しに引っ張ってみる。抜けないし千切れない。
「ド根性蔓植物…」
――ド根性?

つやっと光る蔓植物。確かに、抜かれてたまるかという根性はありそうだ。
「…ベベルさん、幾つか案があるのですが」
「え、聞く聞く!」ベベルはぱっと立ち上がった。
ズィナは右手の人差し指を立てる。
「1つめ。『溶解魔法で根を溶かす』」
「おぉ〜」
「…それで引っこ抜ければいいですが、悪い場合階段と根が融合するかもしれません」
「あ―…そっかぁ…」

人差し指に加え、中指も立てる。
「2つめ。『破壊魔法でこの段を壊す』…は後々面倒なのでやめておきます」ズィナは首を振った。
「…そうね、ルー様に何か言われそうだし」

薬指も立てて。
「3つめ。『消失魔法』」
「ズィナの魔力ならいけるんじゃない?」
「不可能ではないと思いますが… 消失魔法≒送還魔法と考えるとすると、
 よその時空に飛ばすことになります」
ベベルはうんうんと頷く。
「考えてもみてください…こんな植物が送られてきたりもしたら、
 はっきり言って 迷 惑 です」

沈黙。

「……全部自分でやめにしてるじゃない」
ズィナははっとした。

ベベルはしゃがみこんで、蔓植物を指でつんつか突っつく。
「前読んだ本にさぁ、『目には目を 歯には歯を』ってあったから、
 『炎には炎』でいこうかな〜とか思ったんだけど、」
つんつかのスピードがだんだん速くなる。
「『炎には炎』っていっても燃えないじゃないのよこの蔓植物!!」
最後につ―んと指ではじいた。

――炎でどうにかする… 炎“を”どうにかする、だったら…?
しばし考え、ズィナは先程とは別の意味ではっとした。

「4つめ…『炎のもとをなくす』
 炎は酸素がなくなれば消えます。酸素をこの蔓植物の中からおびき出せばいいんです」
「はいは―い 意見があるんだけど」
「何ですか?」
ベベルは手を挙げたまま答える。
「この蔓植物が光合成して酸素をつくっちゃったらイタチごっこじゃない」
「んんん…それよりも速く酸素をおびき出せばなんとかなります」
「……自信なさ気な割には言い切ってる…」

突然ズィナのぶつぶつが始まった。
「酸素をなくすには、こちらから水素を魔法合成でけしかければ水になって、
 そうだ水を蔓植物から出せば手っ取り早い、干からびればいいんだけど
 滝の水をあびているから常に潤って…ぇ え」
「ズィナが壊れたっ!?」
ズィナはくるりとベベルに背中をむけて、階段を下りはじめた。
「ルーに抗議してきます。こんなの出来るわけ無いじゃないですか…!」

「…あたしもそれに賛成するわ」
ベベルは図書館に向かった。


  コーレニン図書館

ベベルは本棚からオレンジ色の表紙の魂の本を取り出し、机に置いて裏表紙を開いた。
999代目のページ。
「フーラルうぅぅなんて事してくれんのよ!」
「はあぁぁ?順番追って話せ!」
フーラルは引きつった表情で、ベベルと同じテンションで返す。
「滝の螺旋階段!あんた変な植物置き去りにしてきたでしょ!」
「凄ぇあれ芽ぇ出したのか」
「芽どころじゃないわよ! 無駄に成長して、指令書でそれを駆除しろ、って!」
「ま―待て待て」
フーラルは両手でストップサインを出した。
「俺は、手伝っただけ、だ」
「…共犯者」
ベベルはびっ、と指をさす。
フーラルはふぅ、と溜息をつく。
「難しいこと考えなくてもさぁ、最初から炎をおびき出せばいいじゃね―か
 お前、雷魔法専門だろ?できるできる」
適当にひらひら振られるフーラルの左手に、ベベルは少々ムッとした。
「根拠がさっぱりなんだけど― …あれ、ズィナ?」

扉を開く音がしたのでそちらを見てみると、ズィナが図書館に入ってきたところだった。
「行ってきたの?ルーに抗議しに」
「えぇ、行ってきました。
 ――「あんな指令は無茶です」
    「無茶だったら私がとっくにやってるさ」
    「今からしていただくのは有りですか?」
    「無しだな。面倒だ」
    「あれ?今面倒って…」
    「ヒントが欲しかったら図書館に行けばいい」――
 全く…これはクイズか何かですか」

そう言って、ズィナは深緑の表紙の魂の本を開いた。
「リヴィエさん、滝の螺旋階段のところにある蔓植物の駆除の仕方を教えてください」
単刀直入に訊く。
ベベルはぼそっと呟いた。
「ズィナと同じ魂系の人、リヴィエって名前だったんだ…」
「リヴィエ!?」
反応したのはフーラルだった。
ベベルが何か訊く前に、フーラルは「俺に何も訊くな」とだけ言って、別の世代のページに行ってしまった。

一方、シューナの魂系の本。
「へぇ、あれ蔓まで伸びたんだ!」
リヴィエもフーラルと同じような反応だ。
「駆除の仕方かぁ…分解魔法をかければいいんじゃないかな」
せっかく育った植物を取り去ってしまうのが勿体ないようだった。
芽を出すのも見れなかったのが心残りだったらしい。
「植物合成の魔法は、『テリス・エッス・ラボリュエール』」
「魔法合成で『ラボリュエール』ですから…『テリス・エッス』を頭につければいい、ということですか?」
「そう、えっとそれで…植物分解が…ぺ、ぺ、……」
植物分解の魔法はあまり使わなかったようだ。
「ぺ…?」
「ぺ… そうだ!『テリス・エッス・ペクターレ』!
 分解したいのを思い浮かべて唱えるんだよ」
「『テリス・エッス・ペクターレ』…」
忘れないようにズィナは繰り返す。

「ベベルさん、解決したので行きますよ」
「あっ、…うん!」
ベベルは急いで魂の本を本棚に戻した。


  コーレニン東部 滝の螺旋階段

ズィナは杖の先を蔓植物に向けた。
「テリス・エッス・ペクターレ」
みるみるうちに蔓植物は細くなり、炎が抜けていくのが分かった。
「ベベルさん、あとの駆除はお願いします」
「了解!」
ベベルは両手を蔓植物へと突き出した。
「ザルーア!」
空気がゴロゴロどよめき、一瞬の光と同時に雷鳴が轟く。
耳をつんざくような音の後、オレンジ色の声が跳ねた。
「やった!指令終わり!」
…が、しかし。

「…あれ?」

蔓植物は、そのままだった。

「まさか…とは思いますが」
ズィナは再度蔓植物に杖を向け、植物分解の呪文を唱えた。
「あぁ、やっぱり…」
ズィナが手に掴んだのは、一本のワイヤーだった。


あの後蔓植物を完全に除去することに成功した2人は、そのことを伝えにルーのもとへ向かった。
その蔓植物はワイヤーと炎が合成されており、それを伝った雷によって、
蔓植物が接触していた南東部の一部の壁が丸焦げになったらしい。全く予測していなかった。
そのことで2人はルーにこっぴどく叱られ、ズィナとベベルはひたすら「すみません」を連呼した。

  コーレニン図書館

ズィナは魂の本を開く。
「リヴィエさん…どうしてあんな植物をあんな場所で育てようと思ったのですか?」
リヴィエは苦笑いを浮かべた。
「南西部は水路も池も少ないから、植物を育てるための水を僕の部屋までひこうと思ったんだ。
 あと、滝なら高い場所から水をひけるから、簡単に蔓を伝っていけるしね!
 でも水ならなんとかなってたし、試しにやってみようって感覚だったな〜…あはは―」
「そ…そうですか…」

リヴィエの供述と共に、この蔓植物騒動は終わりを告げた。




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