| ズィナ編 1代目のとある日 |
| 1代目世代交代の日の、シューナがある魔法をかける日の、5年ほど前の話―― コーレニン 図書館 静寂な図書館の空気に、扉を開ける音が混じる。 「えっと…… シューナいる?」 扉から少しのぞかせた顔が言った。 「いないよ―? 何?フッセ氏、シューナ探してるの?」 自信なさげの声に反応したのは、ウィーアだった。 フッセは、また自信なさげに口を開く。 「この転換石がどうも不機嫌なんだ… 前にも何度かこういうことがあったけど、そういう時はシューナが解決してくれたから」 手にしているのは、彼の魔法道具の『転換石』だ。 魔力が他者に比べて低いフッセは、この石を使って上手く魔法をかけている。 いつもなら「だから『氏』はいらないよ」と言うところだが、今はそれどころではないらしい。 黄色に近い黄緑の目が、キョロキョロと図書館中を見渡す。 ペンを口にくわえながら、ウィーアは答える。 「ふぅ〜ん… シューナってさ、図書館には滅多に来ないのに色んなこと知ってるよね」 椅子の背もたれに腕を乗せて、足をぶらぶらさせている。 図書館の雰囲気に背く仕草だった。 彼女をまとう雰囲気そのものが、図書館という空間に背いていた。 『図書館には滅多に来ない』のは、ウィーア然りである。 しばし静寂が流れる。その間、ウィーアはずっと足を揺らしていた。 そして、思い出したように言った。 「他の所にいるんじゃないかな―? ね、オシャーンはどう思う―?」 呼びかけられて、少し離れた場所で本を読みあさっていたオシャーンは顔を上げて、無言で首を振る。 「はい」か「いいえ」の問題ではないのだが。ウィーアはもう一度訊く。 「ね、オシャーンはどう思う―?」 ただでさえもしかめっ面のオシャーンは、さらに顔をしかめた。 「……シューナ、誰」 「…」 「…ほぇ?」 きょとんとしている2人をよそに、オシャーンはまた書物に目を落とした。 純粋な緑の目は、文字の羅列を追い始める。 中途半端な長さの、ぼさぼさの浅縹色の髪は、ぴたりと静止している。 「ねぇウィーア…」 「ん?」 「オシャーンって… … これ以上知識詰め込む必要あるの?」 ある意味では正しい疑問である。オシャーンはコーレニンの中でも知識はトップクラスだからだ。 「どうだかな― あ、そ―だっ! オシャーンとフッセ氏とシューナを足して3で割ったら、最強の魔法族ができるっ!」 「ぼぼぼ僕は余分だよッ!?」 「ね、オシャーンもそう思うよねっ!」 オシャーンは顔を上げ、首を小さく傾げた。 「むぅ…3で割るのがいけないのかな?」 「3倍にしたままじゃ駄目だよ、ちゃんと割らなきゃ!」 何の話だか。 ウィーアの外はねオレンジ髪が、ひょこひょこ揺れる。 「そりゃね― シューナだって、打ち込むこと見つけたら5年10年籠もることもあったよ? 予告はするから、こっちも覚悟はできるんだけどね〜」 「今回もそれだったらどうしよう? まさか予告…無いよね?」 「えっと〜…」 ウィーアはペンをくるくる回し始める。 少しして、そのペンの動きはぴたりと止まった。 「あ、言ってた」 「――…もう一度」 「言ってた」 「ウィーアぁぁぁ、どうしよう!?」 「う―ん、どうしようね―」 「…考えてる?」 シューナは、既に行動を始めていた。 |