時空橋編(34)
ルーベリーはコーレニンとよく似ていた。
どちらも外界から閉ざされた小さな世界。
地球とは異なるも、どこかが地球と同じ世界。
ルーの箱庭のようでありながら、誰のものでもない世界。
ルーベリーとコーレニンはよく似ていた。
***
コーレニン内 異空間
ほのかに明るい部屋の中で、テナの目に入ったのは折り畳まれた紙片だった。ルーから届いた『指令書』というものだろう。
自分が開いても良いのだろうか。ローテーブルを挟んだ向かいのソファへ目を移すと、フーラルとリヴィエふたりの寝姿が。交互に寝息を立てるリズムがぴったり揃い、これを『息が合う』というのだろう。
よく眠っているところを無理に起こさなくてもいいか。開いてしまおう。テナは紙片に手を伸ばした。
さて。
そこに書かれた文字は、いわゆる筆記体だが形が整っており、読むのに差し支えない。
「『デニアスフィーナを迎えに行きがてら、彼女に朝食を届けること。誰が行っても構わない』……」
指令書の文面には続きがあった。
テナ達の現在地はコーレニン南東部を模した区画。デニアの隔離先は東部にある。
彼女は朝食を希望したためルーが用意した。指令書と同じように届けるには体裁として具合が悪い。という訳で、そこに料理の入った籠も置いた。
と。
たしかに、蓋の閉まったピクニックバスケットがそこにある。隣には、テナ達の分とおぼしき蒸籠がある。
これから待ち受ける、デニアと交渉することについては特に記載がないようだ。それもそのはず、直前に渡す情報などないのだろう。
せいぜい、
『悔いを残さぬように』
と。そう締め括るのが、ルーにとっての精一杯だったようだ。
テナは指令書を置いた。
文面を書き記すのはこの国の公用語だ。これまでこの国に住む皆と交わしたのも同じ公用語。その言語をルーベリー語と呼ぶのだと、読み方や話し方と一緒にあるひとが教えてくれた。
教えてくれた師の名をメイボセ・フッセといった。彼女と離ればなれになって随分久しいが、顔も声も忘れたことは一度もない。
目の前で眠る彼らも、そう。
「フーラルさん、リヴィエさん」
小声で呼んでみるも、ふたりの瞼は動かない。
「……本当は、見送るのが辛かったんですよ」
語りかけるように、しかし独り言のように、言葉が口からこぼれ出す。
「わかっていたことなのに、初めてのことではないのに、どうしようもないぐらい寂しくて。
今も、あなた方と私の間の『時』の空白を、どうしたら埋められるのだろうって。
不思議ですよね。ひとりひとりの中には空白なんてないはずなのに」
しばらくふたりを眺めていても起きる様子はない。これでよかった。
そうするうちに思い返す。ふたりは西暦1909年に約束を交わしたあと、すぐ現代に来たと言っていた。
テナは知っている。ふたりが西暦1989年の歳末に『またね』と言って取引所を後にしたことを。
彼らは80年後の未来まで生きねばならない。そのためにも。
繰り返す決意がテナを立ち上がらせる。
自分の役目は故郷ヴェイスと決着をつけること。そして、フーラルとリヴィエを無事に元の時代へ返すことだと。
***
テナの杖には、幾重もの時間が織り込まれていた。
小さな頃から共にした時間。
過去の時代から来たフーラルが、杖を直してくれた時間。
過去何百年にも渡って、リヴィエが手を入れ続けた時間。
さらに昔、メイボセがその植物を創り上げた時間。
間に挟まった、デニアの感情。
長い時間をかけて増幅したのは、恨みか悲しみか、それとも憎しみか。
知り得なくても構わない。双方の納得できる着地点になら辿り着けるはずだから。
「フーラルさん、リヴィエさん。お届け物の指令ですって」
***
それはまだ、朝が訪れて間もない頃。
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