| オシャーンの日記編 (2) |
コーレニン337代目 サントとプナハは、南西部の時空移動ポイントまで来ていた。 2人は東北部に住んでいるのだが、知った顔に出会うと気まずいので対極のこのポイントまで足を運ぶことにした。 そのポイントは廊下から直接入れるようになっていた。 薄暗くてタイル張り。ひんやりした空気。 「ここから行くんですね…」言いながら、プナハがじっくりと頷いた。 サントが確認をとる。 「オシャーンの日記は持ってきた?」 「あ、はい!」 プナハがあわわと日記を目の前に両手で抱える。 サントが頷いたのでいそいそと下ろし、プナハは『あの時』のページを開いて読み上げた。 「『――明日その時間にとぶ 使う魔法は【イストリール】 杖魔法・数式魔法・魔方陣全てに使える魔法――』 …この前の続きは小さい文字で書かれていたので、全然気付きませんでした……」 開いてある日記を、サントがひょっこり覗き込む。 「この魔方陣――…この魔法で使う物?」 「あ、多分そうだと思います! ここは魔方陣主流の私に任せてください!」 プナハはあたふたしつつも、自信たっぷりの様子だった。 プナハが魔方陣を組み、その中にサントも加わり、呪文を唱える。 「「イストリール」」 西暦1730年 同場所 プナハが声を上げた。 「つ、着きましたか?」 「まぁまぁ落ち着こうか。外に出て確かめないと分からないよ。」 「ところで正面の壁…こんなのありましたっけ?」 「誰かが造ったんじゃないかな…わからないけど。」 「そうですかね〜… あ、サントさん、これ動きますよ!」 プナハが壁に取り付けられた取っ手を動かすと、扉一枚分ぐらいの壁が横にスライドされた。 引き戸になっていたらしい。 そこからそろそろと向こうを見ると――見知らぬ2人が床に腰を下ろしていた。 時間を移動したのだから、その場にいるのは知らない人で当然なのだが。 その2人に、プナハがそっと問いかける。 「あの―、あなた方は1000代目の方々ですか?」 向こうの一人が即答した。 「999代目だよ?」 答えたのは、リヴィエ=シューナ。 リヴィエの返答に戸惑いつつも、プナハは「ありがとうございます」とだけ残して、ひゅっと首を引っ込めた。 「どうしましょうサントさん、999代目ですよ!?」 「聞こえてたよ、プナハ、落ち着いて落ち着いて。」 2人は時間を計算し間違えていたのだった。 「どどど、どうすればいいんでしょう…!?」 「また時間を計算し直して、移動し直せばいいんじゃないかな。じゃぁ戻ろうか」 そのままサントとプナハはこの時代から姿を消そうとしたが、低く筋の通った声がそれを遮る。 「待て」 向こうにいたもう一人、フーラル=ウェイウィーアだった。 「どうかしたの?」 リヴィエが訊くのも無視し、フーラルは2人に問いかける。 「お前ら…… 何代目だ」 サントが向こうの2人から見える位置に来て答えた。 「337代目。」 その姿を見たフーラルの表情に少し変化があったように見えた。 フーラルがその時何を考えていたか分からなかったが、少なくともサントは思った。 ―オレンジ色の癖毛…ウェイウィーアの魂系… 青寄りの瞳はウィーア譲りか… 気がつくと、サントはフーラルをじっと見ていた。 同じ魂系として、似通うものがあったからかもしれない。 フーラルがサントのことをじっと見ている理由はよく分からないままだが。 フーラルにも思うところがあったらしい。 互いが互いに向ける視線にただならぬものを感じたプナハとリヴィエはおろおろしつつも、固唾を呑んで見守る。 サントは静かに言った。 「今、僕は君のことを知った。魂の本を開けば、事情とかそういうのは全部話すと思う。 とりあえず今は――……これでいいかな」 そうして、サントはプナハのところまで戻ってきた。 プナハがおろおろして訊いた。 「あの、…良かったんですか? 何かこう…オーラを感じちゃったんですけど」 「あはは、大丈夫だよ。じゃぁ一旦337代目の時代に戻ろうか」 サントもフーラルに話したいことは色々あった。 だが、今は一応急いでいたので、後回しにした方が良さそうだった。 時間の移動をするに当たり特別急ぐ必要はないのだが、なんだか気持ち的に焦っているところがサントにもプナハにもあった。 フーラルとしても訊きたいことは色々あったようで、999代目の後日、フーラルはウェイウィーアの魂の本を開き、サントと話をした。 コーレニン337代目 南西部 時空移動ポイント プナハとサントは、自分たちの時代に戻ってきていた。 「…まさかの999代目でしたね」 「あはは、そうだね。今度は計算間違えないようにしないといけないね」 「サントさんって計算得意なイメージがありましたけど…」 サントは魔力は高いが、主に数式魔法を使っている。 「あんなに大きな数字…何十万年っていう数字だったから」 そう言って、サントは笑う。 きまりが悪いときにウィーアが笑うような、そんな笑いだった。 「計算し直すついでに、1000代目の時代を下見しておくのはどうでしょう?」 なんのついでだか。 サントはまた笑った。笑い上戸というわけではないみたいだが。 「いいかもしれないね。 1000代目の人たちの年齢によっては、気が早すぎるかもしれないけど」 コーレニン1000代目 大広間 「気が早いとか以前にだな……」 ルーは呆れたような、怒ったような中途半端な顔をした。 「そもそも何でお前がこの時代にいるんだ!」 「別にいてもいいじゃないか」 カシェは即答する。 「さっき図書館で魂の本見てきたけどな、俺のページに『要注意』って書いてあったんだけど 何だあれ?ルーが書き込んだのか?」 「知らんな。わざわざ『要注意』って書くぐらいなら、お前の前科全部書くさ」 「あ―やってみろやってみろ。いつ書き終えるか、時間との勝負だな」 ルーは大きく溜息をつく。 「…ってこんなやりとりしてる場合じゃないな。 なんでまた1000代目に?」 「ルーの魂系の奴の部屋は何処だ?」 ルーの問いを、カシェはあっさりとかわした。 「南部だ。大広間に近いから、すぐに見つかるだろ」 * 「南部…か…」 カシェは北部住みなので、南部の雰囲気はなんとなく慣れない。 コーレニンの中でそう大差はないのだが、細かい部分を見ると、少しずつ違ってくる。 * 大広間。 ルーはあることを思い出した。 「カシェに言うの忘れてたが… あいつマホガニーを見つけられるか?」 * 南部の廊下を、カシェは歩く。 「『大広間に近い』って随分大雑把だな―… あん時はあれで納得したが…」 しょうがなく、1000代目の住民に訊くことにした。 前からでも後ろからでも、自分のほうに向かってくる人物に気をつけながら、カシェは歩く。 暫くと歩かなくても、廊下を歩く人物とすれ違いかけた。 「あ、…なぁ、ルーの魂系の奴を教えて欲しいんだが―…」 一応初対面なので、やんわりといく。 声をかけられたその人も、やんわりと返す。 片手で持っていた杖を、両手で持つ。 「あ、僕ですが」 一応初対面なので、敬語で返した。 カシェは耳を疑った。 ――今、こいつ『僕』って言ったよな? そういえば、ルーの魂系探すのって要は紅目を探せばいい話だよな? けどこいつ… 紅目じゃないよな… とりあえず、その人には「そうか」とだけ返しておいた。 ルーには、「泊まっていくんだったら自分が使っていた部屋を使えばいいさ」と言われていた。 カシェの部屋は、北部の少し入り組んだ所にある。 大広間からは遠くはないので、他の地方にも足を運んでみることにする。 コーレニン東部。 廊下で壁にもたれている人を見かけた。 先程のことが気になったので、他の人にもルーの魂系について訊いてみる。 前髪が長くて顔が隠れているので、いささか声はかけづらかった。 「いきなりでなんだが… ルーの魂系の奴について何か知らないか?」 やはり初対面なので、やんわりといく。 その人は、外見とは裏腹にきぱっと返した。 「マホガニーさんをお探しなのですか? 茶色の髪に、茶色の瞳。茶色の大きな杖も、分かりやすいと思いますよ」 ――茶色の瞳!? さっき会った人物も、茶色の瞳をしていた。 ――やっぱりあいつが… カシェはふと、目前のちっこい人物が、自分を見上げていることに気付く。 髪の隙間から見える目は、自分を疑っているようだった。 「ところで貴方もルーの魂系ではないのですか? ルーの魂系は紅い瞳と聞いたことがあるのですが」 「!!」 「貴方のことばかり訊くのもなんですので、私のことも言わなければなりませんね。 私はズィナです」 魂系なんざ、髪を見れば分かるだろう。そう言うかのような口調だ。 「どうしてルーの魂系の方がこの時代に二人いるのか…とても双子とは思えませんし…、 どうしてマホガニーさんの瞳が紅くないのか、 どうしてこの杖がこんななのか、分からないことだらけです」 ズィナは、本がくっついた杖をカシェに見せた。 ――この杖… ルーが魂の本のカシェのページに、カシェの前科を全部書くとしたら、こうも書かれるだろう。 『魔法道具と魔法道具とを合成した』と。 ズィナはカシェの様子をよそに、追い打ちをかける。 明らかに、カシェが1000代目の住民でないことを見抜いている。 「貴方、…誰ですか?」 ここで負けるほど、カシェも柔じゃない。 「ルーの魂系ってことはあってるな」 カシェは来た道を戻る。 ――面倒なことになった… ズィナと会ってからというものの、「面倒なことになった」というフレーズがカシェの頭の中をぐるぐると回る。 いっそ心の内を読んでやっても良かったか、と思ったが、すぐに思い直す。 ――あいつのことだから気味悪い… カシェは大広間を経由して、北部を歩く。 途中、廊下の椅子に人形のように座っている者を見かけた。 他の人から見れば、風景にナチュラルに溶け込んでいるように見えるが、 カシェの中で嫌な予感バロメーターがぐ―んと上がった。 カシェは感情に押し流されないよう、言葉を選びながら声を掛ける。 「…何だお前? この時代にもいるってことは魔法道具だったのか?」 椅子の上の者は、さらっと返す。 「あら、この時代のルーの子っていつの日かのルーの子にそっくりなのね。 可哀相すぎて悲しくなるわ」 ちっとも悲しそうに見えないし、声のトーンも殆ど変わっていない。 その様子で、カシェは確信する。 「エミウル――何故お前が此処にいる」 「あら、私は正当な理由があってこの時代にいるのよ」 エミウルは、高めの椅子からすとん、と降りた。 「捜し物があるのよ。誰かがこの時代に持ってきているんじゃないかと思ったんだけど… あなたは知らないかしら?」 ――水のあいつとサント… 間をおくと怪しまれるので、カシェは「知らん」と答えておいた。 とことこと歩いていったエミウルを特に気に掛けることもなく、カシェは今の問題点を整理することにした。 ・紅目じゃない者が自称ルーの魂系 ・ズィナとかいうシューナの魂系 そして、 ・自分と同じ337代目の、オシャーンの魂系 ――色んな事に首を突っ込んだみたいだな…… 大広間で、ルーは大きな溜息をつく。 「カシェの奴…変なことに首突っ込んだりしてないだろうな…」 カシェとルーがこのことを考えたのは、同時だったかもしれない。 「「だったらまぁいいさ」」 両者の紅目が、黒光りした瞬間だった。 オシャーンの日記 海は、様々なものの象徴とされる。 ある時は人生の、ある時は未知の世界の入り口の、ある時は生命の起源の。 それほど色々なものの象徴となるだけあって、海は色々な表情を持ち合わせている。 勿論、それ以外で象徴としているものも多くあるだろう。 そして、俺は海を、俺なりにあるものの象徴としよう。 海を―― |