| オシャーンの日記編 プロローグ |
コーレニンには、ごく稀に「精霊混じり」が生まれる。 世代交代を終えた魂が新しい個体として生まれるときに、その魂に精霊が混じった者を指す。 今のところ、「精霊混じり」は今までに2名しかいない。 一人は天の精霊が混じった、1000代目のラィ・ルアン。 もう一人は―― コーレニン 337代目 私、水魔法が得意なんです。精霊混じりですから。 水の精霊が混じっているんですよ、凄くないですか? 「そうだねプナハ、精霊と一緒に生きるってそうそう無いよね」 ですよね? サントさんもそう思いますよね? 他の方々は私を不思議なものを見る目で見てくるのですが、私は姿はどうあれ、誰よりも水魔法に長けていることを誇りに思っています。だから、もっともっと水魔法を使えるようになりたくて、図書館で色々調べるんです。 今日は、いつも通らない本棚を見てみました。 「それで見つけたのが、今手に持っているそれ?」 はい、そうです! 「でも水魔法を調べるのに見つけたのがどうしてそれ?」 ほら、ここに「オーシャン」って書いてあるじゃないですか。 でも、表紙をめくった最初のページの端っこに書いてあった文字を見て、勘違いだと分かったんですけどね。 「どれどれ見せて… 『因みに【オーシャン】と読み間違える奴がいるかもしれんから念のため書いておくが、俺は【オシャーン】だ』 …成る程」 ちゃんと書いてあってほっとしました! もし書いてなかったら、私の中ではずっと『オーシャンさん』で通っていたところでしたから! 「僕もそうだったかもなぁ… ところで、さっきプナハが言ったように、それって日記なんだっけ? 勝手に読んでいいの?」 大丈夫ですよ。『これは未来の為の記録でもある。だから読んで欲しい』って。 「日記を人に読まれることを逆に利用したんだね」 凄い方ですよね、オシャーンさんって! 「…それはいいけど、さっき僕のところに来たとき凄く焦っている様子だったけど…いいの?」 え?――…… ……あぁっ!! そうでした、すっかり忘れていました! 「大丈夫?」 大丈夫ですきっと! はい、それで……っと、このページにこんな風に… 『100万年後に何かが起きるらしい。 ルーが言ったことだから正しいのだろう。 100万年後の世代だけでは対抗できないだろうから、明日その時間にとぶ』 「それだけ?」 ん―…それしか書いてないです… 『100万年後』に何が起こるのか、どうしてその世代だけでは対抗できないのか、全然書いてないんです。 「そのオシャーンって人も焦ってたんだろうねきっと」 やっぱり今の私よりも焦っているんでしょうか…? 「同じくらいじゃないかな?」 そうでしょうか…? えっと、とりあえず、そういうことですので私達も行きますよ、『100万年後』に。 「…ん?」 だって『100万年後』の世代だけで対抗できなくて、それで1代目の方達が赴いたんですよ? それでも足りなかったらどうするんですか? 「ルーのことだから、その辺は見越してるとは思うけど… ん?プナハ、もしかして手伝いたいとかそういう?」 さすがサントさん!分かってくださってますね! 「駄目だと思うな。 下手に手をだしちゃ」 えぇ!? どうしてですか!? 「僕達が必要なときには、ちゃんと知らせが入るはず。だから僕達は黙っていたほうがいいと思うよ」 そうはいっても… 「と、いう訳で保留ね。いい?」 良くないです。 「困ったなぁ… そういうところは頑固だなぁ…」 サントさんこそ、そういう時に限って笑ってばかりじゃないですか。 あ、行きたいんですね? サントさんも興味あるんですよね? 「ちょ、ちょっと待って、違うからね?笑顔はもともとだからね?」 分かってますよ、行きたいってことぐらい。 「え?何で!?」 はい、では行きますよ― 「!? ってプナハ、手を引っ張らないで欲しいなぁ……――ぁぁぁ…」 数分前 図書館前 (……へぇ、そういうことだったのか… 水のあいつがやけに焦った様子で図書館から出てきたと思ったら…) カシェパース・ルーは、図書館から出てきたプナハの心境を読心したところだった。 その間に、プナハは何処かに去ってしまっていたのだが。プナハはカシェの存在に気付いていない。 カシェは心に関する魔法を得意としている。 それを専門とする者にあってはならない、黒い性格も持ち合わせている。 更に、その2つを合わせた者にあって欲しくない、高い魔力も持ち合わせていた。 (…『100万年後』… 今から数えると、66万2760年後か。 『何かが起こる』な… もっと具体的なことを浮かべてくれれば助かるのにこういう時に限って…) カシェは回廊を歩きながら考えに耽っていた。 (…サントの所に行くつもりだったようだが… あいつら2人で大丈夫か? サントはともかく、水のあいつは精霊混じりだけあって何をしでかすか分からんな。 …仕方ないな… 俺も行くとするか…) 人目のつかないところに入ると、カシェは杖を取り出して、呪文を唱え始めた。 ほぼ同時刻 図書館内 「日記が…足りない……?!」 『オシャーンの日記』が並ぶ本棚の前で、エミウル・オシャーンは驚きを隠せない様子だった。 普段は冷静沈着なエミウルもこればかりは、どうしようもないらしい。 そしてエミウルは、落ち着きを取り戻しつつ考える。 ――オシャーンの魂系以外で、この本を必要とする人がいるの…? 足りないのは最終巻… 何か重要なことが書いてあったから無くなったとすると… あの巻に書いてあった、重要なことは… 『100万年後』がどうとか… まさかね。そんなこと… …そうはいっても、オシャーンの魂系の私には、嫌でもその日記を取り戻す義務があるはず。 この巻がなくなってから長い時間が経っていたのなら、『100万年後』にとんでいることもあるかもね。余程のひとじゃないと、しないと思うけど。 まずは周りを探してみて、それでも見つからなかった時には… …『100万年後』にとぶしか無いようね。 精霊混じりのプナハ・ルアンは、エミウルのいう『余程のひと』だった。 彼女の頑固さに負けたサントレット・ウェイウィーアも、『余程のひと』に当てはめられることになった。 プナハは、少し期待していた。 精霊混じりが生まれるのは、現時点では自分しかいない。 そして、『100万年後に何かが起こる』ということは、『100万年後』に精霊混じりが生まれる、という可能性もあるだろう。 稀だから。現時点で前例はいないから。 だからルーも驚いた、そういう事だろう。 『100万年後の世代だけでは対抗できない』というのは、その精霊混じりが何か事件を起こす―― 彼女は勝手にそう解釈していた。 自分と同じ境遇の者に会いたい、そんな願いを込めながら。 |