| 転換石編 (5) |
コーレニン東部 食堂 にんじんスティックをカリカリ囓りながら、ユイユが何気なく喋り出す。 「…でさ、何で大抵僕とベベルって同席すんの?」 ベベルはバナナチップスをぱりぱり食べながら、同じく何気なく返した。 「しょ―がないでしょ、東部の食堂ってかなり小さいのが点々としてるから、皆の考えが重なるとすぐ埋まっちゃうのよ。 ていうかユイユって南部住みでしょ?あっちの方が食堂大きいじゃない」 「そうなんだけど、ほら、こっちにはデザートが」 ユイユの言うとおり、東部の食堂はデザートの宝庫。 それ目当てで、東部の食堂に来る他の地方の者もそれなりにいるらしい。 「にんじんってデザートだっけ?」 ベベルの突っ込み以降、2人はまたそれぞれの食事に戻る。 ――わざわざ東部まで来て、にんじんかぁ… そういう自分はバナナなのだが。 カリカリ。 ぱりぱり。 カリ。 ベベルは平然として食べているが、ユイユはだんだん無言の空気に耐えられなくなってきたようで、とりあえず何か話題を出そうと口を開く。 「そうだベベル、転か――」 「んぁ?」 ベベルの片目がつり上がっているのに気付き、慌ててユイユは口を閉じる。 しかしベベルは見逃さなかった。 「まさか転換石のこと? 何?あんたまだそれ探してたの!?」 拳を打ちつけられたテーブルが、ガタンと音を立てた。 「え、えぇ〜と…それは…」 ユイユはわたわたと手を振る。 ベベルは頬杖をついた。 「なんて言うかね〜 そんなのに頼るな―!ってのもあるけどさ、2つの魔法道具をパートナーにするのは難しくない?」 「…あ」 考えたことも無かった。 「一時的に別の魔法道具を使うならともかく、その…転換石ってやつ、パートナーにする気…あったりする?」 「…実は」 「杖をとるか転換石をとるか?」 「…どうしよう」 「そもそも数式魔法を」 「だ――っ!!」 ユイユはテーブルをバン、と叩いて立ち上がった。 「だったら両方使えるようになればいい!? 杖魔法も数式魔法も! 杖も転換石も!」 「あっちゃ〜 怒らせちゃったかぁ…」 「ご馳走様っ!」 そう言い放ち、ユイユは残りのにんじんスティックを掴んで食堂から出て行ってしまった。 ベベルは、バナナチップスを再び食べ始めた。 「ご先祖様の魔法道具、ね… あたしだって欲しいよ…」 パリ、という乾いた音を虚しく思った。 一方、ユイユ。 「どうしよう…」 つい勢いで出てきてしまったから、特別に何処へ行こうというのも無い。 マホガニーに魔法の特訓をしてもらおうか。 だけど、レイミンとロイシンの双子が動き出したことが分かった以上、特訓に集中できるものなのかも怪しい。 「うぐぐ……どうしよう」 ――そうだ。 だったら、転換石を探す理由をなくせばいい? にんじんスティック達を急いで噛み砕き、飲み込んだ。 コーレニン南部 マホガニーの部屋 入口の扉をくぐった先の、まるで塔の中のような部屋。 そこの中央を梯子で降りたところに、マホガニーの居住空間はある。 「面倒じゃないの?」 「その時は引っ越すことにするよ」 マホガニーは平然とした顔で、瓶の中身を棒でぐちゃぐちゃとかき混ぜていた。 蜜みたいな色と…あと何だろう。 マホガニーの専門は記録魔法であり、専用の瓶の中に様々なものを記録、すなわちコピーすることを半分趣味としている。 そうではあるのだが。 「それ、…記録魔法の?」 「うぅん、メープルシロップ+αだよ」 ルーが危ない。 何をやらかすつもりかは知らないが、ルーのことなので失敗に終わるだろう寧ろ失敗に終わることをユイユは願う。 それにしてもさも当たり前の如くに怪しいことをするのはやめんか。 「試しに舐めてみる? あ、でもユイユだからやめておこうか」 「…どっちにしても要らない」 マホガニーの作業が終わったところで、本題を切り出す。 「魔力転換の魔法だって!?」 ユイユは真顔で頷いた。 「魔力転換…まりょくてんかん…ややややったこと無いな…」 流石に動揺したのか、部屋の中をうろうろと歩き回る。 「やることは可能なの?」 「ユイユがやろうとしてることって、『ある分野』の魔力を補うために『他の分野』の魔力を全部置き換えるってことでしょ? 目に見える形…でいうと… …」 ぱっとひらめいた。 「やってみようか!」 「本当!?」 マホガニーは、テーブルの上に砂時計を置いた。2人は砂時計を挟んで対座する。 「じゃぁ魔力転換とか無しで、最大限の魔力でこの砂を速く落とすから」 砂時計は、大よそ15分サイズだろうか。 杖をひっくり返した砂時計に向ける。 「シプロロン」 通常より若干速いかなと感じる速度で砂が落ち始めた。 ユイユは食い入るようにその砂達を見つめる。 「これって何の魔法!?」 「質量調節の魔法だよ。今、この砂達は小さいくせにかな―り重くなっているはず」 コーレニンが天体なのかどうかも分からない以上、どのくらい質量を増やしたのか見当もつかない。 「じゃぁ、魔力転換をやってみようか。呪文とか知らないけど、とりあえず宛てずっぽで何かやってみるよ」 先程と同じように、砂時計に杖を向ける。 しかし、前回よりも目つきが鋭くなっていた。対座してもろに見える状況なので、正直怖い。 「…… シプロロン!」 だが、前回よりも砂の落下速度が速くなった印象は受けなかった。 その後も色々試しながら繰り返すものの、成功はしなかった。 しまいには、「お手上げ!」と言ってマホガニーがもたれた椅子が勢いづいて倒れかけたのを、ユイユが慌てて食い止めるほどだった。 「どうして成功しなかったんだろう?」 「そうだな〜…」 首をコキリコキリと鳴らす。 「呪文を知らなかったというのもあるし、数式魔法や魔方陣をもっと深くまで知っていればなぁ…」 勉強不足、とうなだれた。 そしてそのまま続ける。 「あとは、魔力転換も自力でするということは、魔法を重複して使うということ、というのも…。 例えば、箒に乗ったまま魔法を使う感覚と似ているかな。些細な魔法ならともかく、どっちもとても大きな魔法で…」 うなだれ過ぎて額がテーブルすれすれまできていた。 砂時計をどかしてユイユはテーブルに這いつくばり、マホガニーの顔を覗き込む。 「じゃぁ、やっぱり魔法道具じゃないと無理?」 マホガニーの額がガツン、とテーブルに当たった。 「そうだね〜… 魔法道具はいわば魔法をかける際のジグだからねぇ…」 エリートにとって魔法失敗は大きかったか。 「ジグ… 補助工具のこと? だったら応急の手作りも出来るってこと!?」 マホガニーは頷きたいのだろうが、最早そのための間隔も無い。 代わりに、頭をすっと上げた。 「1から作ることもできるし、改造することもできる。それが魔法道具」 「魔法道具を…作りかえる…!?」 ユイユは立ち上がった。 「やってみるっ!」 マホガニーの顔に平生さが戻った。 「だったら工房に行ってみればいいんじゃない? 解決できるのかは保証できないけれども」 |