転換石編  (4)



  コーレニン南東部 ロイシンの部屋

「ねぇロイシン〜」
レイミンは駄々をこねるような声を出した。
床にぺたんと座って、薄い木の板にナイフで何やら切り込みを入れている。
「なぁに― レイミン?」
ロイシンは、本棚の中をごそごそあさっている。
ただでさえも斜めになってしまっている本達がだんだんと、更にその角度を大きくする。
「『転換石』を探すっていっても、なぁんにも手がかりがないよ?」
「イベント開いて皆に探してもらお―!なんてこともできないしね?」
ごそごそ最中の手を止めた。

「ねぇねぇ、ロイシンの真似してパズル作ってみたんだけどやってみてくれない?
 絵柄通りには当てはまらないから頑張ってね♪」
「なんだって!?」
驚いた拍子にロイシンが手を離すと、本棚の本がバラバラと崩れ落ちた。


「む―…絵柄にぃ〜…惑わされる〜…」
「ふふふロイシン、私の狙い通りね! あ、そうだ!」
レイミンは手を掲げ、光と共に空中に現れた鍵をぱし、と握った。柄が長く、杖のような鍵である。
「ロイシン、『転換石』を探すのはつまり宝探しよ!
 謎解きして宝箱に辿り着いても、それを開ける鍵が無かったら中身の宝には出会えないわ!」
「そうだねレイミン! 宝箱に感動しすぎて中身の宝を忘れちゃぁいけないね!」
相変わらず、あらかじめ打ち合わせしてあるのではと疑いたくなるやりとりである。
ロイシンのほうは、完全に意味不明なパズルを放棄したようだ。
「それでね、どうせ鍵を使うなら、私達が鍵穴を探すより鍵穴から来てくれたほうが手っ取り早いでしょ?」
「レイミン、その鍵で鍵穴を呼べるの!?」
「ロイシン気をつけて! 鍵穴の向こうは目的だけど、鍵や鍵穴はあくまで手段よ!
 手段を目的とすり替えちゃったら、もれなくドボンするわ」
「もれなく!?」

レイミンは先程の鍵を高く掲げた。
「でも問題があるわ…私達は鍵やパズルで誰かを迷子にすることはできるけど、
 逆に迷子になった私達を鍵やパズルはどうにかしてくれるのかしら?」
どうやらこの杖みたいな鍵は、ただの飾りのようである。

「い〜やッ、大丈夫!」
ロイシンは勢いよく立ち上がった。
「迷子になっても、あたし達のパズルや鍵なら迷子を切り開けるんだよ!」
自分で言っている意味がちゃんと分かっているのだろうか。

「鍵穴の向こうにあるのは『転換石』。お宝はなかなか手強いんだろうねっ!」

「ロイシン、力を貸して!」
いつの間にか、レイミンは部屋の中央を片付けてスペースをつくっていたようだ。
「OK!」
「くるくる海老さんはよく呼び寄せ魔法を使うけど、…空間を一枚岩としか見れないのはナンセンスね」
「同じ時空の中でも空間に区切って考えるのは可能! コーレニンのあちこちにある時空移動スポットの考え方だね!」
「その通りよロイシン! 流石私と双子なだけあるわ!」
レイミンは両手を挙げた。
「ふふふあたしのほうがお姉さんなんだよっ! レイミンこそ流石はあたしとの双子っ!」
レイミンの両手を握った。

2人の息がぴったり合ったとき、2人の足元に魔方陣が現れた。

「「トートルム! 同一時空間より『転換石』を召喚します!!」」

暫くその体勢を続けるも、なかなか手応えが無い。

――んん、具体的にイメージ出来ないから捜索に手間取っているのかしら…
――レイミン、もう少し!もうあとちょっとの集中だよっ!

その時、魔方陣が消え、同時に2人の頭上から何かが落ちてきた。

「なぁに、これ?」
レイミンが上手くそれをキャッチする。
深い赤の円錐型の物体に、オレンジ色の円錐型の石がよく映える、変な物体だった。
魔法道具なのだろうとは思われるが…
「レイミン、それって本当に『転換石』?」
「どうかしら? 直接聞いてみない?」
「えッ、魔法道具に!?」
ロイシンの驚きをよそに、レイミンはその物体に問いかける。
「もしも―し、貴方は『転換石』さんですか―?」

すると。
「えぇそうよ、私は転換石」

「「魔法道具が喋った!?」」

「うぅん、違うの。喋っているのは魔法道具じゃないのよ。
 喋っているのは私」
「と言われても―…」
ロイシンは困惑する。レイミンはきょとんとしていた。
「私ね、魔法道具にとり憑いている精霊なの
 精霊といっても姿は無いから、声だけで勘弁してね」
とても穏やかな声だった。

「じゃぁ仮称ではあるけど転換石さん、魔法道具って全部精霊が憑いているのかな?」
正体が分かった途端、ロイシンはどかどかと聞いてきた。
「憑いているのは少ないかな。転換石が特別なだけ」
「そうか〜 転換石さんのこと、もっと知りたいなぁ」
「ごめんね、私そんなに饒舌じゃないの。持ち主に聞いてくれない?」
「持ち主、って言ったって――」
フッセ。
今は、魂の本の中。
ハルテの魂系である自分達には、フッセの本を開くことは出来ない。
仮にこじ開けたとしても、魂が異なるから話すことも出来ない。

「だったら、通訳者がいればいい……?」
ロイシンがポソリと呟く。レイミンは即座に反応した。
「くるくる海老さんね! とりあえず行動、図書館に行きましょう!」


  コーレニン図書館

「うっひょ― 絶好のタイミング♪」
ロイシンが扉を開けると、少し入ったところにユイユがいるのが見えた。
レイミンも、ロイシンの肩越しにユイユの姿を確認する。

「ふっふふ― ユイユ見ぃつけたっ」
双子がユイユに歩み寄る。
「!? ロイシンに…後ろにレイミン? どうしたの?」
「それよりさ―、ユイユって探し物してるよね?」
――うぐ。

(ちょっとぉロイシン、いいの海老さんにばらしても!?)
(ユイユが下手に動きまわるよりはずっといいんじゃないかなっ!)
「あ―、やっぱり探し物してるんだぁ。顔に出てるよね〜」
ロイシンがにやにやと笑う。
レイミンのにんまり顔もちらりと見えた。地味に腹が立つ…。
「その探し物って、コレじゃないかな?」
自称転換石を見せた。
だが、ユイユの顔から動揺が消える。
「…あ、それ見たことある…けど、何?」
「転換石、だよ?」
――うげ。
いきなり核ワードが出てくるとは思わなかった。いつの間に双子にばれていたんだろうと、冷や汗がだらだらと流れる。

しかし、これだけは言える。
「……それ、転換石じゃない」
魂の本で、前にフッセが言っていた。
転換石は、半透明の白い石だと。

ロイシンと、肩越しにレイミンとが自称転換石に目を落とす。
「じゃぁこれ……何?」
ユイユはとっくに魂の本で転換石のことを聞いているはず。そのユイユが食いつかないというのなら、これは別物である。
双子はそう判断した。

この時このオレンジ色の魔法道具には、3人の間で「嘘つきの魔法道具」という判決が下された。

双子は思う。
何故、この魔法道具は嘘をついたのだろう、と。

ユイユは焦る。
ライバルがいたのか、と。


 



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