| 転換石編 (2) |
コーレニン南部 水の橋の部屋 両脇の砂利道。 それらを繋ぐ小さな橋々の上も砂利で、道にも橋にも浅く水が流れている。 本来川があるべきところは、不規則な形の石畳になっていた。 その中の一つの橋の上で、ユイユは左手に乗せた石に杖を向ける。 「リュオ」 石がぱっくりと割れた。 「石の分割は出来た、と… じゃぁこれは?」 マホガニーはユイユに、器に入った水を差しだした。 「…水?」 「さっきと同じ呪文でいいよ」 丼サイズの器に入った水を、ユイユは不安そうに眺める。 マホガニーは心配しているというよりは、逆にわくわくした目でユイユを見守る。 「リュオ」 水は一瞬割れた…が、すぐに元に戻ってしまった。 「やっぱりいきなり水は難しすぎたかな―」 マホガニーは苦笑する。 「同じ呪文なのにどうしてこうも違うの!?」 ユイユは、自分が一瞬でも水を割れたことと、水がすぐに元に戻ってしまったことの両方に驚いているようだった。 マホガニーはうんうんと頷いた。 意味もなく頷いたりするので、ユイユには未だによく掴めない。 「石は、一旦分割したらその後もずっと割れたまま。 でも水はこんな風だから、ずっと魔法をかけ続けるか… それとも」 「それとも?」 ユイユが聞き返すと、マホガニーは杖の先を足下を流れる水にすっとひいた。 水は割れたまま、流れ続ける。 「こんな風に、一旦魔法をかければ、その後もずっと効果が続くものもある…っと」 杖の先で水面をばしゃ、と叩くと、割れは消えた。 ユイユは目をまん丸にした。 「そ、それって… やっぱり高い魔力は必要?」 「うん。」 マホガニーはあっさり頷く。 「あ、でも」 橋を降りて、石畳の上に立ち、側に石を置いて杖を向ける。 「リュオ」 石が粉々に砕けた。 「もともとの魔力が高いとこんな風に」 遠慮がちに、それでも余裕の見えるマホガニー。彼の顔と、割れた石とを交互に見て、ユイユは目を丸めた。 「それ……さっき僕が使ったのと同じ魔法だよね!?」 「うん。今のは、わざと魔力の制御を外したんだ」 同じ魔法なのに、こうも効果が変わるなんて。ユイユには信じられなかった。 ユイユの魔法特訓中。 分割魔法にとりあえず一区切りついた今、マホガニーはユイユに訊いた。 「ユイユの専門って何だっけ?」 「まだはっきりとじゃないけど… 呼び寄せ魔法なら使えるかも」 「あ、だったら話は早い!」 「へ?」 マホガニーはきょとんとしているユイユを引っ張り出した。 「ど、何処に行くの?」 「えっと―、」 マホガニーが言いかけると、ユイユはいきなり「わわっ!?」と後ろに倒れた。 ユイユが倒れた拍子にさっとよける人影があったのを、マホガニーはしっかりと見た。 そのマホガニーに無邪気な笑顔を向けて、長い袖でユイユを指して、その子は言う。 「えび!!」 「ら…ララーノ、今度は何?」ユイユは起きあがる。 「えび!」 ララーノはユイユのそばにしゃがみこんで、その特徴的な両側にまとめた髪をぐいぐい引っ張る。 マホガニーはしゃがみこんでララーノの頭をなでながら、ユイユに訊く。 「ララーノがその髪を引っ張って、それで倒れたんだ?」 「うん!」 ユイユの代わりに、ララーノが元気よく答えた。 「マホガニー、なでる人違わない?」ユイユはひりひり痛む頭をさすった。 「なでて欲しいの?」 「いや、そうじゃなくってさ」 頭をなでられながら、ララーノは訊いた。 「ねぇマホガニー、あのえび食べれる?」 「食うなぁっ!!」 「あ―大丈夫だよユイユ、魔法族の髪は抜いても切ってもすぐ元通りになるから」 「そそのかすなぁっ!! ……でさぁ、」 「何?」 ユイユはびしっとララーノを指さす。 「なんでマホガニーはララーノの頭なで続けてるの?」 「あ―、これ? 御利益だよ」 「違うよね?」 この後、ララーノは案外あっさり別の場所へ行った。 ユイユは、先程の質問をした。 「…それで、何処に行くって?」 「魔法道具がたくさんある部屋があって、そこならユイユの呼び寄せ魔法を使って探せるかな、って」 ユイユとマホガニーは再び歩き始めた。 「…ここ?」 2人が着いた部屋は、ぱっと見金ぴかだった。 驚きと好奇心で、ユイユは金ぴかエリアの一つに近づく。 「凄い…こんなに魔法道具があるんだ…」 コーレニンの魔法道具は、何故か金色のものが多いようだ。 マホガニーの杖は例外としても、大抵の杖は金色の軸に何か宝石、というパターンをよく見かける。 ユイユの杖もその一つ。 だが、ユイユは特別な場所で魔法道具を手に入れたわけではなく、確か自室にもともとあったのをそのまま使ったような…と思い出す。 「ここで呼び寄せ魔法を使えば、ひょっとしたら見つかるかもしれないよ?」 「…よし!」 ユイユは、両側に宝石のついた自分の杖を縦向きに持つ。 「……カフマーレ!」 飛んできた物体を、ユイユは自慢の動体視力で捉えるが、 …掴もうとしたその手の位置がずれた。 ユイユの額で、「ゴッ」という鈍い音がする。 「…ユイユぅ―、大丈夫…?」 マホガニーが心配する前で、大丈夫そうなユイユは自分のそばにガラガラと落ちた物体を掴みあげる。 「えっとぉ―、…何これ?」 変な物体だった。 深い赤の円錐型の物体の下には、オレンジ色の円錐型の石が下向きに付いている。 そのオレンジの石の周りには4つ、小さな青緑っぽい石がぐるっと付いている。 深い赤の円錐には、金色の輪っかがついていた。 手のひらサイズのその物体を、ユイユはじ―っと見る。 マホガニーも、この類の物体を見るのは初めてのようだった。 「ユイユは何を思い浮かべたんだろう…?」 「う―ん、何だろう… 『転換石』って思い浮かべた筈なんだけどな〜」 実際にユイユは転換石を見たわけでもなく、ぼんやりとしかイメージが浮かばない。 「図書館に行ってみようか」というマホガニーの誘いで、2人は南部の時空移動ポイントに行く。 図書館は北東部にあるので、遠い場所に住んでいる者達は、大抵至る所にある時空移動ポイントを使う。その場所でなくとも時空移動魔法は使えるのだが、このポイントを使った方が、安全かつ的確だ。 それぞれの杖を持ち、それぞれが空間移動の呪文を唱える。 「「イストワンネ」」 コーレニン図書館 ユイユは、魂の本を開く。 「フッセ、転換石ってどんなの?」 セピア調の写真の中のフッセは少し動揺した様子を見せるが、落ち着いて頭の中でぐるぐる回る情報を整える。 「半透明の白い石だよ、カクカクの。 紐は―…あるとすれば、まだついているのかな?」 「そうなんだ―。 ところで、呼び寄せ魔法は、言葉がしっかりイメージできるだけでも出来る筈なんだ。 転換石ってそれ本当の名前じゃないでしょ?」 子孫であるユイユのほうが完全に主導権を握っている。 「ふえぇっ、そうなの!?」 先祖であるフッセは完全に慌てている。 「分かんないよ―、長くて覚えてない―…」 * コーレニン1代目の時代 皆がパートナーとなる魔法道具を探し始めた頃、フッセはある石を持って大広間に行き、玉座でくつろいでいるルーにおどおどと声を掛ける。 「ルー様ぁ…」 「ん、フッセ、どうした?」 2、3段の階段を上る勇気も出ないフッセは、持ってきた石をぷるぷると上げる。 「これ…何ですか…?」 「あ〜それは、ある分野の魔力を別の分野の魔力に転換できる石だ」 よくもまぁこの距離で分かったものだ。 * 「いや『長い』って…名前一言も言ってないよねルー様!?」 「あぁ―…何処かで聞いたかもしれないけど覚えてない―…」 頭を抱えるフッセが可哀相になってきたユイユは、マホガニーと大広間に向かう。 コーレニン大広間 「ルー様!」 ユイユもルーに声を掛けづらく感じてはいたが、そこは頑張る。 「どうしたユイユ?」 ユイユの頑張りを知ってか知らずか、ルーは余裕をぶっこいている。 「転換石の本当の名前って何ですか?」 「サウ・パクチュアーロ・マルガロッド変石」 「…は? そんな名前なんですか?」 「知らん。今考えた」 ルーの調子に引き込まれまいと、ユイユはぐぐっと踏ん張る。 一方、ルーはまだ余裕をぶっこいていた。 「コーレニン中の魔法道具なんざそんなもんさ。 もともと決まった名前なんて無い。使う者が勝手に名前をつけてそう呼ぶだけだ」 「では、ルーファシー様が命名なさったら、それが正式名称となるのですか?」 さすがというか、マホガニーも余裕そうだ。 「さぁな。そうなるんだったら、さっきの名前でつけてやろうか?」 「やめてください」 ユイユは、ルーの挑戦的な笑顔にひけを感じる。 「私じゃなくとも、誰かが契約魔法をかけて正式名称をつけたとしたら…話は変わってくるかもしれんな」 |