転換石編  プロローグ



  1000代目 コーレニン 食堂


「だ―か―ら―、そんな物が今の時代にあるはずないんだって!」
フォークをくるくる振りながら、ベベルは断言する。
その態度に圧倒されつつも、ユイユは頬張っていたスパゲッティを飲み込んで反論する。
「でもわからないよ、いくらご先祖様が使っていた魔法道具だからといって、世代交代の時に魔法道具も一緒に消えるとは限らないよ。それに、本物じゃなくても似た効果があればいいんだし」
ユイユの意見も、先程から変わっていない。

ユイユ・フッセは名前の通りフッセの魂系である。
フッセの魂系は、もともと魔力が低い。1代目のフッセは、それを知恵で補っていたようである。
そして、魔力が低いのはユイユ然りで、ユイユはそれを補えるものとして、フッセが使っていた魔法道具である『転換石』を探していたのだった。
今日は、自分と魔力が同じくらいのベベルにそのことで相談を持ちかけたのだが、ベベルは依然としてこの態度である。
ベベルはウェイウィーアの魂系。
1代目がウェイとウィーアの双子で、しかもその双子は魔力に差があるため、後の世代の魔力の高さで当たりはずれが大きい。
もっとも、ベベルはいわゆる「はずれクジ」に当たるのだが。


クリームパンを手に握って、ベベルは言い返す。
「そもそも、そんなものに頼らなくてもやってけるでしょ?
 魔力が低いのはあたしも一緒だけど、あたしも何とかやってるじゃん」
「ふぇもふぇふぇるふぁ…」
「あ―何でこのタイミングでスパゲッティ頬張るかなぁ… 飲み込んで飲み込んで」
ユイユは慌てて飲み込み、水を一口飲んで話し始める。
「でもベベルは、僕より少し魔力高いよ…しかも魔法道具で魔力上げてるよね?」
「あれは―……えっと、分かる?非常時ね非常時。ユイユこそ杖魔法使えるだけましじゃん」
「むぅぅぅ……あれはあれで…」

2人の議論は終わりそうにない。
遠目に眺めていたマホガニーはそう判断し、2人のところへ寄っていった。
「魔法道具に頼らなくても、ユイユの魔力を補えるものはあると思うけどなぁ…」
「あ、マホガニー! 何?何か知ってるの?」
長く続いた議論に嫌気が差していたのか、ベベルは第三者介入を喜んでいる様子だった。
もともとベベルとマホガニーはそう親しいわけではなかったのだが、2年前のとある出来事ですっかり親しくなったようだった。
マホガニーはルーの魂系。諸事情により、魔力は文句無し。
その魔力で、マホガニーは2年前の出来事、ルーベリーの旅で大きく貢献したのだった。

「え、いや分からないけど… ユイユが探してるのは何だっけ?」
「ふゅっふぇの…」
「だから変なタイミングでスパゲッティ頬張らないでってば」
ごくん。
「フッセの『転換石』。本来魔力って色々な分野に分散しているらしいけど、ある分野の魔力を別の分野の魔力に置き換えることで、その分野の魔力を一時的に上げることができるって道具」
「やけに詳しいね…」
「フッセの魂系の本で訊いたんだっ」
ユイユは得意げになった。
「それで、フッセさんに今その『転換石』があるかを訊こうとしても、フッセさんは今生きている訳じゃないから知り得ない、と」
「うわぁ…やっぱりマホガニーは頭いいなぁ…」
ほけ〜とするベベルをよそに、ユイユはうんうんと頷き、そして訊く。
「…で、マホガニーは何かいい方法知らない?」
「や、魔法道具のことは知らないけど… ルーファシー様に伺うのはどうかな」
『ルー』という固有名詞が出てきた途端、ユイユはさっと青ざめてフォークを握った手を止める。
「はぐらかしてくるよ絶対。あとそのことで僕を利用してくるよ絶対」
「確かに」
マホガニーはそれを肯定する。

――あっさり肯定してきたよ…何でも知ってるような余裕でさぁ…
   マホガニーなら、魔力が低い人でも効果が高く出る魔法を知ってるんだろうなぁ… あ。

ユイユの頭の中で、電球がぱっと光った。
「そうだ、魔法教えてよマホガニー! 僕でも使える、効果が高いの!」
「え? あ、うん、いいよ?!」
突然の勢いに流されるままに、マホガニーは了承する。

こうして、ユイユはマホガニーのもとで魔法修行をすることになった。

「やっと自力でなんとかする気になったみたい…」
席を立って歩き出すユイユに続いて歩き出すマホガニー。そんな2人を見て、ベベルはぼんやり思った。
――『教えてもらう』って方法は…まぁユイユだしね。

しかし。

――マホガニーは絶対『転換石』を見つける手掛かりを知っているはず!

ユイユはまだ『転換石』を諦めてはいなかった。


 



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