オシャーンの日記編 (23)



  翌日 コーレニン東部

予定通りの頃合いに、ラィの部屋がノックされる。
「お待たせ! さあ行こうか」
ドアを開けた途端に、マホガニーから溌剌と挨拶代わりの言葉を掛けられる。
その直後、ラィの後ろにいたプナハに気付いた彼は、帽子を外し、手を差し出した。
「初めまして。ルーの魂系1000代目、マホガニー・ルーです」
初対面の相手からスマートな挨拶をされたプナハは、動揺しながらマホガニーの手を両手で握った。
「はっ…はじめまして!プナハで…あっ、プナハ・ルアンです!337代目の!
 えっと、その…カシェさんっ、」
「カシェ?!」
「すみませんっ、つい! マホガニーさん、宜しくお願いします!」
だんだんと、手に込める力が強くなる。
訳も分からず瞬きを繰り返し始めたマホガニーに気付き、はっとプナハは手を離した。
「本当に、337代目だったんだ…」
マホガニーがぽつりと呟く。
「ご存知だったんですか!」
「名前だけね」
と、ラィに目配せする。ラィは一瞬肩で反応した直後、ローブの襟に顎を埋めた。
プナハは未だに信じられなかった。ルーの魂系の魔法族は、カシェのように得体の知れない者ばかりだと思っていたからだ。
どちらが、『ほんとうの』ルーの魂系なのだろうか。どちらも本質は同じなのだろうか。

案内を始めるマホガニーの背中を後ろから眺めながらプナハは歩く。
雑談の相手となっているラィは、振られる話題に対して都度、静かな言葉で返す。
マホガニーに同魂系の先代を重ねて見たのとは裏腹に、自分と同魂系の後代については、とても「同じひと」とは思えなかった。
ただ、不器用な受け答えが自分に重なり、「同じ魂」というのには確かに頷ける。
その事に気付いたプナハは、いてもたってもいられず、半ば話を割る形で、マホガニーに問いかけた。

「あのっ、マホガニーさんはカシェさんの事をどう思っていますか」

突拍子もない質問に目を小さくしたマホガニーは、慎重に言葉を選びながら答えを捜す。
「居心地が良い相手とは言えないけど、自分と全く別のひととは思えなくて…何て言うのかな」
プナハとラィ、それぞれの顔を交互に見る。
「踏み込む事への怖さもあるけど、もっと知るべきであろう相手、…」

「…だと、思っているよ」


  コーレニン西部 工房

マホガニーは扉を叩く。
「連れてきたよ」

間もなく扉が大きく開いた。
「ようこそ工房へ。で、どっちがマホガニーの先代だって?」
フォンエはマホガニー以外の2人を交互に見る。
目の合ったプナハが、代わりに答えを口にした。
「その、…2人共、ルアンの魂系です」
「そう。マホガニーから聞いていると思うけど、私はフォンエ。金属の精霊だよ」
「わっ…私はプナハといいます、水の精霊混じりです!」
「ラィ。…天の精霊混じり」
「よろしくね。で、用事は何?」
本題の要求に、プナハは言葉を詰まらせる。
「用事って程では無いのですが…その、会いたかっただけです…精霊のあなたに」
フォンエは拍子抜けした様子を見せた。
「会いたかっただけ、ね――…。
 精霊なんてコーレニンのあちこちにいるでしょ?
 なんでまた工房に?」
プナハは「ん―…」と考える。
「少し長くなるのですが、
 私はもともと337代目の魔法族で、コーレニンで初めて且つ唯一の『精霊混じり』だったんです。
 ところが、1000代目にも精霊混じりがいるかもしれないと知り、この時代に来て、こうして対面を果たせたのですが、その際、普通とは異なる精霊さんの存在を聞かされ、…せっかくなので、会えたらな…と。
 精霊さんにとって、私達がどういう存在かを聞いてみたくもありましたし…」
今度は、フォンエが少々考え込んだ。
「中途半端な存在ではあるよね。100%の魔法族でなければ精霊でもない。
 だけど私だってこんな見てくれだしさ。共感する部分はあるよ」
プナハとラィをじっと観察する。
「それどころか、私よりもずっと精霊らしいよね」
互いの外見的特徴が逆だったら、きっと違和感が無かったのに。そう、視線で訴えかけながら。
「キミ達に聞きたい事があるよ。
 どっちとして生きてる? 精霊としてか、魔法族としてか」
プナハとラィは、自身の根本を問う質問に目を見張りさえしたが、飲み込むまでに時間は掛からなかった。
「魔法族としてです、…が、フォンエさんが先程仰ったように、どちらでもない中間の存在だという気持ちもあります」
「それが普通だろうね。ラィは?」
「…ルーベリーの者として」
どちらでも無い回答に、フォンエは複数の意味で驚かされた。
「…自分の生まれた場所、知っているんだ」

ラィは頷く。
「ルーベリーの雲の国。…多分、間違い無い」

見かねたマホガニーが補足する。
「僕達ともう一人の魔法族の3人で、ルーベリーを旅した事があるんだ。
 そこで偶然に知った事だよ」

「ふぅん…」
フォンエの目に宿る光が、ちら、と瞬く。
「私もちょっとだけ、外に出てみようかな」






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