転換石編 エピローグ |
コーレニン大広間 ちょうどマホガニーへの『指令』が終了したところで、ぞろぞろと魔法族達が入ってきた。 ユイユ、レイミン、ロイシン―― 無事に帰って来れたことに、マホガニーは胸をなで下ろした。 レイミンとロイシンがルーの前に歩み出る。 「ルー様ぁ、こんな子が工房にいたのってご存知でしたか?」 双子の後ろから、恐る恐るフォンエが姿を現す。 「じゃあ私達の役目はここまでなので〜」 レイミンとロイシンは、大広間から立ち去ってしまった。 ルーはフォンエと向き合う。 「……やはり生きていたか」 ――やっぱり気付いていたんだ。 フォンエは口元をきゅっと結ぶ。 ルーが両手をかざすと、そこに巻かれた紙が現れた。 「681代目の時代になってから薄々気づいてはいたがな」 そう言って紙を広げ、ユイユ達に見せる。 「これって――魂系名の表?」 「お前達が生まれた時にも、この表で魂系を確かめた。 どうだフォンエ、名前が無いだろう? お前の名前は、一度もこの表に載ったことが無い」 つまり、魔法族では無い。 魔法族のように生まれ、魔法族として育ったが、魔法族では無かった。 それを、ルーもまた分かっていた。 「世代交代の時は、いなかったんだっけか?」 ルーからの問いかけに、フォンエは躊躇いがちに頷く。 「何故だか、大広間に行くのが急に怖くなって」 ずっと部屋に閉じこもっていたのだという。 680代目最後の夜が明けても尚、自身の姿が消えることは無かった。 ルーは優しい眼差しでフォンエを見つめた。 「たとえ魔法族じゃなくてもな、フォンエ。 私はお前を見放したりはしないさ」 フォンエははっとする。 こき使われるとかじゃない。 世代交代以降にルーの前に姿を現したら、ルーは自分のことを怪訝に思うかもしれない。 もう自分の事なんて見てくれないかもしれない。 そんな気持ちが、次第にフォンエの心を支配していった。 ただ、その得体の知れない感情を自身で処理しきれずに、 「こき使われるのが嫌だ」という最もらしい理由を付けて、納得していたのだった。 以前マホガニーに一部をこぼしたとはいえ、内側で溜め込んでいた思いに改めて向き合い、 溢れ出そうな感情を抑えようと、必死に歯を食いしばって俯いた。 不意に頭上から声が掛かる。 「――で、この後何処に行くんだ?」 「…え?」 ふっと顔を上げる。 「ちょっと待ってください」 ユイユが割り込んだ。 「コーレニンの掟は? 『コーレニンを出て1年以内に戻って来ないと魔力が消える』って…」 「魔法族はな。 精霊は割とその辺が自由でな。それにフォンエがコーレニンで生まれた精霊なのかも怪しい。 形になったのはコーレニンにおいてであっても、根本が別の場所というのもあり得るだろう?」 ――どうなんだろう。 フォンエ自身、よく分からない。 「ま―形を持った以上、それまでよりは時空間移動に不自由は出てくるがな。 で、どうする?」 フォンエはまた俯く。 「ルーは私を利用しないの?」 「精霊を支配するのはなぁ… コーレニンの精霊の中には、ルーベリーや地球で生まれた精霊もいるかもしれないだろう? この2つの時空については、土地に手を出しているだけで住民を管理しているわけじゃない。 だが、魔法族は別だ」 ルーの上から目線がユイユに直撃する。 「うぐぐ… どうして魔法族は別なんですか?」 持ち堪えながらユイユが尋ねる。 痛い。精神的に痛い、この目線。地味に声質が変わっていたのをユイユは聞き逃さなかった。 それなのに。 「教えてやるもんか」 ぷいと後ろを向いてしまった。 「え――!!!」 後ろを向いたまま、ルーはフォンエに問いかける。 「何か助けて貰いたいことがあったら頼むかもしれんが… それでもいいか?」 「いいよ。…こき使わなけりゃね」 再び上げたフォンエの顔には、笑みが浮かんでいた。 「だからさ、 もう暫く、あの工房にいさせて欲しいな」 「いいだろう」 ルーは振り返った。 「今後も宜しくな」 フォンエは、満面の笑顔で頷いた。 * 一方。 「いいの、レイミン? 精霊さんがどうなったか聞かなくても」 「どうせ後からでも分かるでしょう?」 「また工房にお邪魔しようかな?」 「なんとなくだけど、…仲直りしたいわね」 * そして、大広間。 「そうか、ユイユも遂に専門分野を見つけたか」 淡々と話すルーだが、嬉しさが滲み出ているのがこちらにも伝わった。 それ以上に嬉しい気持ちが体中から溢れていたのが、始終の様子を遠目に見守っていたマホガニー。 ユイユはマホガニーに笑顔を向ける。 「見つけたよ、僕が意地になれる魔法! 僕の専門は、対話魔法だよ」 「ようやく専門が決まったんだね、おめでとう!」 マホガニーが目を輝かせた。 ユイユは大事なことを思い出した。 「そうだマホガニー、『アピアス』のことでお願いが」 「あ、正式名称の契約魔法のことなら、もう切ったよ」 マホガニーがサッと手を向ける。 「え?」 「『指令』の後に、おまけとして言い渡された。 本当にルーファシー殿は何でもお見通しのようだね…」 マホガニーが苦笑する横で、ルーが小さくふんぞり返る。 「さあユイユが専門分野を決めたことだし、 早速だがフォンエ、魔法道具のサポートを頼んでもいいか?」 フォンエは凛として返す。 「言われなくてもそのつもりだったよ。 杖と転換石と補助魔法道具、それぞれを活かした新しい魔法道具を作りたいな。 いいでしょユイユ?」 「勿論! 魔法道具の皆も工房に行くのが楽しみだって!」 「僕も付き添って良いかな?」 3人のやりとりを眺め、ルーは口元を緩めた。 最後にユイユに助言する。 「高い魔力で挑める分野が見つかった以上、これまでの魔法の掛け方では通用しないことも出てくるだろう。魔力制御の仕方も、しっかり覚えような」 「はいっ!」 ルーに見送られながら3人は大広間を後にする。 西部の工房へ向かう前に、皆で食卓を囲むことにした。 ――Farbe 転換石編 終わり―― |